「禁漁期は過ぎていて、サイズも大きいです。この伊勢海老なら採っても大丈夫ですよね」

この記事は、素潜りで伊勢海老を見つけて採っていいか迷っている方に向けて書いています。

答えから言います。禁漁期の外でも、サイズが大きくても、その海域が漁業権区域内なら違反です。 いせえびは農林省告示が指定する「定着性の水産動物」(岩場や海底に住み着いて動かない生き物)です。この指定を受けた種は「第一種共同漁業権」(漁協が岸の浅場で貝や定着性の生き物を採る権利)の対象になります。組合員以外が採ると漁業権侵害になり、漁業法第197条により100万円以下の罰金です。

持ち帰りは3つです。

  1. 禁漁期と漁業権侵害は、別のルールです。 禁漁期を外れていても、漁業権区域内での無許可採捕はそれだけで違反になります。
  2. 産地のほぼ全域が漁業権区域です。 いせえびが獲れる海のほとんどで、遊漁者が採る余地はありません。
  3. アワビと違い、3,000万円の重罰対象ではありません。 ただし100万円以下の漁業権侵害は別に成立します。

いせえびは、なぜほぼ全域で採れないのか

農林省告示第51号は、いせえびを「しやこ」「あわび」「うに」などと並んで、農林水産大臣が指定する定着性の水産動物に挙げています。漁業法第60条第5項第1号は、藻類・貝類・この指定を受けた定着性の水産動物を目的とする漁業を「第一種共同漁業」と定めています。

いせえびが獲れる海域では、この第一種共同漁業権が地元の漁業協同組合に免許されていることがほとんどです。三重県は公式ページで「県内でイセエビが漁獲される地区には、『いせえび漁業』を内容とする第一種共同漁業権が地元の漁業協同組合に免許されています」と説明しています。免許を受けているのは漁協であり、組合員以外の遊漁者が採る権利ではありません。

千葉県のQ&Aも同じ構造を示しています。「『イセエビ』は千葉県沿岸の『イセエビ』が漁獲されている地域のほとんどで共同漁業権の対象になっており、これらの漁業権の区域では遊漁者が採捕することはできません」としています。

罰則は漁業法第197条・100万円以下です

漁業権を侵害した場合の罰則は、漁業法第197条で100万円以下の罰金と定められています。この罪は親告罪(告訴がなければ起訴されない罪)です。

禁漁期・体長は県規則の別枠です

漁業権侵害とは別に、多くの県が漁業調整規則でいせえびの禁漁期と体長制限を定めています。これは漁業権を持つ側や漁業権区域外での採捕にもかかる、もう一段のルールです。

禁漁期 体長制限 罰則 条文(公式資料)
千葉 6月1日〜7月31日 全長13cm以下は周年禁止 6月以下の拘禁刑または10万円以下の罰金(併科あり) 規則第37条・第59条
神奈川 6月1日〜7月31日(体長13cm超のもの) 体長13cm以下または抱卵しているものは周年禁止 6月以下の拘禁刑または10万円以下の罰金(第59条) 規則第38条
静岡 5月15日〜9月15日 眼の付け根から尾端まで13cm以下 確認できず 県ページ(規則第35・36・39条抜粋)
三重 5月1日〜9月30日(鳥羽市離島地域以北は9月15日まで) 頭胸甲長4.2cm以下 6月以下の懲役または10万円以下の罰金(第60条) 規則第36・37条
和歌山 5月1日〜9月15日 体長15cm以下 6月以下の懲役または10万円以下の罰金(第57条) 規則第35・36条
沖縄 4月1日〜7月31日 体長20cm以下 6月以下の拘禁刑または10万円以下の罰金(第34条) 県PDF(いせえび類8種を対象)
いせえびの禁漁期・体長制限を県別に一覧化した図。千葉・神奈川・沖縄は禁漁期6月〜7月台、静岡・三重・和歌山は5月からの禁漁期。体長制限は千葉13cm・神奈川13cm・静岡13cm・三重4.2cm(頭胸甲長)・和歌山15cm・沖縄20cmで基準が異なる。
図: 各県漁業調整規則からBLUE BREATHが分類(2026年8月23日時点)。禁漁期・体長は漁業権とは別枠の規則。

静岡は罰則条項が確認できませんでした。東京(新島・式根島)は11魚種を採捕禁止としていますが、いせえびの禁漁期と体長は公式資料で確認できませんでした。

千葉の摘発例は、禁漁期の外でした

海上保安庁第三管区は摘発事例を公表しています。千葉県いすみ市在住の被疑者は「4月16日、千葉県いすみ市大原所在大原漁港内において、いせえび9匹を採捕し、漁業権を侵害した」として罰金20万円です。別の事例では「いせえび13匹(13センチメートル以下のいせえび1匹含む)を採捕し、漁業権を侵害した」として罰金10万円が科されています。

千葉の禁漁期は6月1日から7月31日です。4月16日はこの期間の外にあたりますが、それでも漁業権侵害として摘発されています。禁漁期を外れているかどうかは、漁業権区域内での無許可採捕という違反の成立に影響しません。この摘発事例が起きた大原漁港内の規則については、漁港内での素潜りは違法?で扱っています。

アワビとの違い ー 重罰対象ではありません

いせえびは、漁業法施行規則第41条が定める「特定水産動植物」(うなぎ稚魚・あわび・なまこなど)に含まれていません。特定水産動植物の密漁は190条により3,000万円以下の罰金という重い罰則の対象ですが、いせえびはこの対象外です。

ただし、これは「軽い」という意味ではありません。特定水産動植物の指定が無いだけで、共同漁業権侵害(197条・100万円以下)は別に成立します。アワビが漁業権の有無に関係なく一律禁止される仕組みは、素潜りでサザエ・アワビは違法?にまとめています。

水産庁によると、令和6年の甲殻類の密漁検挙135件のうち、いせえび類は115件を占めています。密漁検挙の件数比較は密漁の罰則早見表にまとめています。

やす(手銛)で狙う採り方は、和歌山で明確に禁止です

和歌山県の規則第38条第3号は、いせえびの採捕を目的とするやす突き漁法および引懸け漁法を禁止しています。漁業権区域の内外にかかわらず、この漁法自体が規則違反です。素潜りで使う道具全般のルールは素潜りで魚突きは違法?にまとめています。

制度と現地の食い違い ー 条文番号がずれています

三重県の公式ページは「漁業権設定海域で、イセエビを採捕したり…した場合には、漁業法第195条の漁業権侵害として告訴されることがあります」としています。しかし現行の漁業法で漁業権侵害の罰則を定めているのは第197条です。沖縄県のPDFでも同様に「第195条」という旧番号の表記が見られます。

さらに三重県のページと規則PDFの間でも、参照している条番号にずれがあります。漁業法は過去の改正で条番号が振り直されており、公式資料の一部にその反映が追いついていない箇所が残っている状態です。潜る前に条文を確認する際は、条番号ではなく「共同漁業権侵害」という中身で照合してください。

この記事で確認できなかったこと

  • 静岡県の罰則条項と、東京(新島・式根島)の禁漁期・体長です。
  • 素潜りでいせえびを合法に採れる体験や漁協の取り組みです。

次の一歩

  1. 自分が潜る県の名前で「◯◯県漁業調整規則」を検索し、いせえびの禁漁期・体長を確認してください。 上の表は出発点で、正本は県の規則です。
  2. その海域に第一種共同漁業権が設定されているかは、地元の漁業協同組合か県の水産担当課に聞いてください。 禁漁期の外でも侵害は成立するので、聞くべきは「区域内かどうか」です。
  3. 見つけても、まず区域を確認してから判断してください。 確信が持てないなら採らないのが一番確実です。潜る前の共通の注意は安全の原則にまとめています。

「イセエビ」は千葉県沿岸の「イセエビ」が漁獲されている地域のほとんどで共同漁業権の対象になっており、これらの漁業権の区域では遊漁者が採捕することはできません。 — 千葉県水産局「遊漁のルールに関するよくある問合せについて(Q&A)」

本記事は2026年8月23日時点で公開されている法令・規則・行政資料に基づく情報提供であり、法律の助言ではありません。個別の事案については、都道府県の水産担当課、漁業協同組合、または弁護士にご相談ください。