「岩の陰に黒くて長い生き物を見つけました。誰も気にしていないみたいだし、拾って持ち帰っても大丈夫でしょうか」
この記事は、素潜りで見つけたナマコを持ち帰っていいか迷っている方に向けて書いています。
答えから言います。ナマコは、県の規則や漁業権の有無に関係なく、全国どこでも採ってはいけません。 アワビと同じ「特定水産動植物」に指定されているからです。特定水産動植物とは、不正な利益目的で狙われやすい生き物として、漁業法施行規則が指定したものです。
持ち帰りは3つです。
- ナマコはアワビと同じ「特定水産動植物」です。 漁業権の有無も県の規則も関係ありません。漁業者の許可と、試験研究・教育実習の許可だけが例外です。
- 採らなくても、持ち帰るだけで同じ罪になります。 漁業法第190条は、採られたと知りながら運搬・保管・取得する行為も禁止しています。罰則は採捕と同じです。
- 罰則は3年以下の拘禁刑か3,000万円以下の罰金です。 タコやサザエのような共同漁業権侵害(100万円以下の罰金)より桁違いに重い罰則です。
アワビと同じ「特定水産動植物」という枠に入っています
特定水産動植物の枠組みは、素潜りでサザエ・アワビは違法?で説明した内容と同じです。漁業法第132条は、不正な利益目的で狙われやすい水産動植物を「特定水産動植物」とし、採捕を禁止しています。対象種は漁業法施行規則第41条で定められており、うなぎの稚魚・あわびと並んでなまこが3号に指定されています。この規定は令和2年7月8日に公布され、同年12月1日に施行されました。
タコのような一般の共同漁業権の対象種は、漁業権が設定された区域の中だけで禁止されます。詳しくは素潜りでタコを採ったら違法?にまとめています。ナマコは区域に関係なく、日本のどこの海でも採れません。
運搬・保管・取得だけでも190条2号の罪になります
漁業法第190条は、採捕した本人だけを罰する規定ではありません。情を知りながら運搬・保管・取得・あっせんをした人も、同じ3年以下の拘禁刑または3,000万円以下の罰金の対象です。自分では採らず、誰かが採ったナマコを受け取って持ち帰るだけでも、この2号に当たります。
県の禁漁期表は、遊漁者には関係ありません
青森・宮城・神奈川・静岡・兵庫・三重・長崎・沖縄の公式資料で、ナマコの扱いを確認しました。
| 県 | 公式の説明 | 確認状況 |
|---|---|---|
| 青森 | 海面漁業調整規則36条で「なまこ 五月一日から九月三十日まで」を禁漁期間と規定 | 原文確認済み(2026-08-28) |
| 宮城 | 「アワビ・ウニ・ナマコは漁業権の対象であり、採取は密漁」と説明 | 県の説明のみ確認・規則原文は未確認 |
| 神奈川 | 「特定水産動植物採捕許可」の制度があると説明 | 県の説明のみ確認・規則原文は未確認 |
| 静岡 | 「あわび、なまこ等が特定水産動植物に指定され、採捕することが原則として禁止された」 | 原文確認済み |
| 兵庫 | 「令和2年12月1日から、あわび及びなまこが特定水産動植物に指定され、採捕することが禁止」 | 原文確認済み |
| 三重 | 規則の禁止期間表・体長制限表のいずれにも「なまこ」の記載なし | 記載なしを確認済み |
| 長崎 | 大村湾で海区漁業調整委員会指示によるなまこ採捕の制限があると説明 | 県の説明のみ確認・規則原文は未確認 |
| 沖縄 | 採捕ルールを載せたページが画像PDFで、本文を確認できず | 確認できず |
青森の禁漁期の表も、三重の「記載なし」も、遊漁者が採ってよい根拠にはなりません。禁漁期の表は、漁業許可を受けた漁業者が「いつなら採ってよいか」を定めた制度の中の規定です。特定水産動植物の禁止そのものは、漁業法という国の法律で全国一律にかかっています。
県の規則に載っていないことは、採れる意味ではありません
三重県の規則にナマコの体長制限や禁止期間の記載が無いのは、県がその規則で個別にナマコを管理していないだけです。漁業法第132条の禁止は、県の規則とは別に、法律そのものが全国に及ぼしています。載っていないから採れる、という読み方はできません。
ウニは特定水産動植物ではありません
素潜りでウニを採ったら違法?で説明した通り、ウニは特定水産動植物に指定されていません。多くの岸で第一種共同漁業権(貝や海藻を漁協の組合員だけが採れる権利)の対象として、区域ごとに管理されています。ナマコは区域や漁業権の有無に関係なく、国の指定で一律に禁止されている点で、ウニより厳しい扱いです。
密漁は暴力団の資金源にもなっています
海上保安庁の「海上保安レポート2021」は、令和2年の摘発を報告しています。「海の黒いダイヤ」と称されるなまこなどを狙った潜水器密漁グループ10件、計73名です。不法収益は総額3億円に上り、暴力団等が関与する組織的な密漁の資金源になっている実態も明らかにされました。同じ年の12月には、改正漁業法の施行で3年以下の拘禁刑または3,000万円以下の罰金という処罰規定が新設されています。
合法に採る方法はありますか
遊漁者がナマコを合法に採る道は、基本的にありません。漁業者が漁業許可や漁業権に基づいて採る場合と、試験研究・教育実習で知事等の許可を受けた場合だけが例外です。潜っていて興味を持ったら、地元の漁業協同組合か都道府県の水産担当課に、体験や見学の機会があるかを直接問い合わせてください。
この記事で確認できなかったこと
- 沖縄県の採捕ルールページ(画像PDFのため本文を確認できず)。
- 千葉・和歌山・長崎の規則原文レベルのなまこの個別規定。
- 北海道漁業調整規則の本文に「なまこ」が見当たらない理由と、別建て制度の中身。
次の一歩
- 自分が潜る県の名前で「◯◯県 なまこ 特定水産動植物」と検索し、県の公式ページを確認してください。 上の表は出発点です。正本は県のサイトにあります。
- 見つけても採らず、地元の漁業協同組合か県の水産担当課に「採ってよいか」を直接確認してください。 禁漁期の表に載っていないことは、採れる根拠になりません。
- 誰かに採ったナマコを分けてもらっても、受け取らないでください。 運搬・保管しただけでも、採捕と同じ罪に問われます。
タコとの違いは素潜りでタコを採ったら違法?にまとめています。潜る前の共通の注意は安全の原則にまとめています。
「令和2年、海上保安庁では、『海の黒いダイヤ』と称されるなまこ等の高級海産物を密漁した10の潜水器密漁グループ計73名を逮捕しました。(中略)不法収益は総額3億円にも上り、密漁が暴力団の資金獲得源となっていることも明らかとなっています。」 — 海上保安庁「海上保安レポート2021」
本記事は2026年8月23日時点で公開されている法令・規則・行政資料に基づく情報提供であり、法律の助言ではありません。個別の事案については、都道府県の水産担当課、漁業協同組合、または弁護士にご相談ください。
