「素潜りで魚を突いていいんですか」

この記事は、素潜りで魚を突いてみたいが、突いていいのかが分からない方に向けて書きました。この質問に日本語で正面から答えている資料がほとんどありません。あるのは「地域による」「漁協に聞け」という、間違ってはいませんが何も教えていない答えだけです。

答えから言います。答えは都道府県ごとに違い、国の法律1本では決まりません。実際に効いてくるのは各都道府県の「漁業調整規則」で、これが47通りあります。 だから47都道府県ぶんの条文を当たりました。ここに書くのは「条文に何と書いてあるか」であって、「あなたが今日あの浜で潜っていいか」ではありません。後者は規則の下にもう2階層あります。

持ち帰りは3つです。

  1. 見るのは国の法律ではなく、行く県の「漁業調整規則」1本からです。 答えを持っているのは都道府県です
  2. 水中銃(スピアガン)は、はじめから選択肢に入れないでください。 条文を確認できた県では、例外なく禁止でした
  3. アワビ・サザエ・イセエビは、道具に関係なく採らないでください。 迷ったら採らない。見るだけなら、どこでも自由です

規則は3階層になっています

階層 何が決まるか どこを見るか
① 国の法律 漁業権侵害・特定水産動植物の罰則 漁業法
② 都道府県の規則 使える漁具・漁法、体長制限、禁漁期 ○○県漁業調整規則
③ 委員会の指示 ②より厳しい上乗せ(区域・期間・体長) 海区漁業調整委員会の指示

この記事が横断したのは②です。③は海域ごとに出ていて、規則本文には書かれていません。「結局は聞かないと分からない」の正体がここです。

水中銃は、全国で禁止されています

条件なしで遊漁者に認めている県は、39都道府県のうち1つもありませんでした。ただし外し方は2通りに分かれます。21県は名指しで禁じています——「水中銃」「水中鉄砲」と定義して禁止する県、「発射装置を有する漁具」を禁止する県、「ゴム、ばねその他の発射装置」を除外する県に分かれますが、いずれも条文に語が出てきます。東京都の条文は「何人も」と書いていて、遊漁者だけの制限ではなく、漁業者を含めた全員に対する禁止です。残る13県には名指しの禁止条文が無く、遊漁者が使える漁具の一覧に載せないという形で外しています。ほかに内水面だけを名指しで禁じている県が4つ、許可制にしている県が広島の1つあります。

なお、水中銃を規制しているのは銃刀法ではありません。銃刀法の「銃砲」は火薬・圧縮気体・電磁石を使うものと定義され、ゴムやスプリングで銛を飛ばす水中銃は構造上あてはまりません。持っていること自体は銃刀法の問題になりませんが、海で使えば漁業調整規則違反です。ただし、これは条文の要件を当てはめた読みで、警察庁の公式見解は見つけられませんでした。

やす(手銛)は、県で割れます

やす(手銛)の扱いを都道府県別に分類した棒グラフ。海面の漁業調整規則を持つ39都道府県のうち、条件付きで使えるのが31県、水中眼鏡と併用できないのが静岡と神奈川の2県、許可漁具の一覧に載っていないのが北海道・岩手・秋田・千葉・兵庫・和歌山の6県。39県すべての条文に当たった。
図: 47都道府県の漁業調整規則の条文から BLUE BREATH が分類(2026年8月21日時点)。母数の39は海面の規則を持つ都道府県で、内陸8県を除いた数。

海面の規則を持つ39都道府県のうち31県が条件付きで認め、6県はそもそも許可漁具の一覧に載せていません。そして静岡と神奈川の2県だけが「水中眼鏡を併用する場合を除く」と書いています。

静岡と神奈川だけが「水中眼鏡との併用」を外しています

これが今回いちばん驚いた発見でした。

(2) やす(水中眼鏡を利用する場合を除く。) — 静岡県漁業調整規則 第43条

神奈川県も第41条で「やす及びいそがね」を挙げたうえで、夜間の使用と水中眼鏡の併用を除いています。条文は「やす」を禁じていません。禁じているのは**「やす」と「水中眼鏡」の組み合わせ**です。裸眼で水面から突くのは許可漁具に入りますが、マスクを着けて潜って狙った時点で外れます。伊豆半島と三浦・湘南は、首都圏のフリーダイバーが最も足を運ぶ海域です。そこがこの書き方になっています。

6県は、そもそも一覧に載っていません

北海道・岩手・秋田・千葉・兵庫・和歌山は、遊漁者が使える漁具の一覧に「やす」が入っていません。これらの県の規則は「次に掲げる漁具又は漁法以外の漁具又は漁法により採捕してはならない」という限定列挙で、載っていないものは使えません。北海道は竿釣り・手釣り・小さなたも網・素手だけです。使える31県も条件は揃っておらず、「船を使わないこと」「火光を使わないこと」「発射装置を持たないこと」「潜水器を使わないこと」と県ごとにバラバラです。香川県は「素潜り漁業」という許可漁業の類型を作っていて、あわび・なまこを目的とする素潜りは知事許可です。

39都道府県の一覧

海面の漁業調整規則を持つ39都道府県です。内陸の8県は海面の規則を持たないため入れていません。この表はデータページにもあり、CSVでダウンロードできます。確度は、◎=条文そのものを読んだ、○=県の公式ページで確認、—=確認できず、です。

都道府県 やす(手銛) 水中銃 潜水器 確度
北海道 一覧に無し 一覧に無し 一覧に無し
青森 発射装置なしのもの 一覧に無し 許可者以外は禁止
岩手 一覧に無し 禁止(内水面) 許可制
宮城 使える 一覧に無し 一覧に無し
秋田 一覧に無し 禁止 禁止
山形 船を使わないこと 一覧に無し 一覧に無し
福島 使える 禁止(内水面) 禁止(内水面)
茨城 サイズ制限あり 一覧に無し 許可制
千葉 一覧に無し 禁止 許可制
東京 使える 禁止 小笠原のみ許可制
神奈川 水中眼鏡と併用不可 禁止 許可制
新潟 使える 一覧に無し 許可制
富山 使える 禁止(内水面) 一覧に無し
石川 使える 一覧に無し 許可制
福井 使える 禁止 遊漁者は禁止
静岡 水中眼鏡と併用不可 禁止 許可者以外は禁止
愛知 使える 禁止 許可制
三重 火光を使わないこと 一覧に無し 許可制
京都 発射装置なしのもの 禁止 許可制
大阪 使える 一覧に無し 許可制
兵庫 一覧に無し 禁止 許可制
和歌山 一覧に無し 一覧に無し 許可制
鳥取 使える 一覧に無し 許可制
島根 発射装置なしのもの 禁止 許可制
岡山 発射装置なしのもの 禁止 許可制
広島 発射装置なしのもの 許可制 許可制
山口 使える 一覧に無し 許可制
徳島 火光を使わないこと 一覧に無し 許可制
香川 船を使わないこと 禁止 許可制
愛媛 火光を使わないこと 禁止 許可制
高知 火光・発射装置なし 禁止 許可制
福岡 使える 禁止 許可制
佐賀 発射装置なしのもの 禁止 許可制
長崎 発射装置なしのもの 禁止 許可制
熊本 使える 禁止 許可制
大分 発射装置なしのもの 禁止 許可制
宮崎 船・発射装置なし 禁止 許可制
鹿児島 柄が離れないもの 禁止(内水面) 許可制
沖縄 潜水器との併用不可 禁止 許可制

「一覧に無し」は、遊漁者が使える漁具を限定列挙した条文に、その漁具が入っていないことを意味します。禁止と書かれていませんが、使えない状態です。規則は改正されます。潜る前に最新版を確認してください。

内陸県では逆になっています。群馬県はやすを禁止漁法のリストのほうに載せ(第23条「やす、針その他これらに類するものを放射する漁法」)、奈良県は水中眼鏡との組み合わせに期間制限をかけています(11月1日〜翌年8月14日禁止)。潜って狙うことを、道具ではなく組み合わせで規制する発想が、海と川で別々に立っています。

道具の話が終わっても、まだ終わりません

道具が合法でも、獲る相手が漁業権の対象なら別の問題になります。 水産庁は、採貝・採藻漁業等を行っている漁場内でアワビ・サザエ等の貝類、ワカメ・コンブ等の海藻類、エビやタコ等の定着性の水産動物を組合員以外の者が採ると、漁業権侵害として告訴され100万円以下の罰金に処せられることがある、と書いています。手で拾っても問題になります。

素潜りに関わる罰金の上限を対数軸で示した棒グラフ。都道府県の漁業調整規則違反は10万円以下、漁業権の侵害は100万円以下、あわび・なまこの無許可採捕は3,000万円以下。破線は海上保安庁が公表している実際の科刑額10〜20万円を示している。
図: 漁業法の条文と各県の規則、および第三管区海上保安本部が公表した検挙事例から BLUE BREATH が作図。横軸が対数なのは、10万円と3,000万円を同じ線形の軸に置くと10万円の棒が消えるため。

罰則は3階層です。都道府県の規則違反が6月以下の拘禁刑または10万円以下の罰金、漁業権の侵害が100万円以下の罰金、アワビ・ナマコ・シラスウナギの無許可採捕が3年以下の拘禁刑または3,000万円以下の罰金です。3,000万円は令和2年の改正で新設され、個人に対する罰金としては最高額です。

実際にはいくら科されているのか

第三管区海上保安本部(茨城・千葉・神奈川・静岡)の検挙事例では、イセエビ9匹で20万円、アワビ3個で10万円、サザエ50個(水中眼鏡・いそがね併用)で10万円でした。令和元年の1年間で、この管区だけで237人が検挙され、うち71人(30%)が県外から来た人でした。

令和6年の密漁検挙件数を対象種別に示した棒グラフ。さざえ349件、はまぐり類223件、海藻151件、あわび118件、いせえび類115件、あさり類95件、なまこ類59件、たこ類50件、うに類46件、とこぶし35件。素潜りで手が届く貝と甲殻類が濃い青で塗られている。
図: 水産庁「参考資料(密漁の現状について)」(2026年5月)の原表から BLUE BREATH が作図。全1,661件のうち上位10種を抜き出した。

令和6年の検挙件数は全国で1,661件、そのうち漁業者以外が1,465件(88%)です。最多はサザエの349件でした。素潜りで最も手が届きやすいものが、最も検挙されています。

潜る前に確認する3つ

  1. その県の漁業調整規則で、自分が使う道具が遊漁者の許可漁具に入っているか。 上の表が出発点です。最新版を県のサイトで確認してください
  2. その海域に共同漁業権が設定されていて、対象種に何が入っているか。 県の水産担当課か地元の漁協へ
  3. 海区漁業調整委員会の指示で、上乗せの制限がかかっていないか。 同じく県の水産担当課へ

だから最後は「聞け」になります。それは調べる側の怠慢ではなく、制度がそういう構造をしているからです。ただし、何を聞けばいいかはこの記事で分かるはずです。道具の選び方は魚突きの道具にあります。

この記事で確認できなかったこと

  • 「水中銃は銃刀法の対象外」という公的な見解
  • 奈良県は内陸県で海面の漁業調整規則そのものがなく、県の「つりのルール」ページまでしか当たっていません(表の39県には入れていません)
  • 表の「禁止」と「一覧に無し」の使い分けが39県ぶん揃っているか(2026年8月28日に条文を読み直した15県ぶんは同じ線で書き分けました。残りの県は先行の分類のままです)
  • 体長制限(あわび◯cm・さざえ◯cmなど)は県ごとに違いますが、この表には入れていません

次の一歩

条文まで読んだら、あとは自分の海の分だけを埋める作業です。

  1. 行く県の名前で「◯◯県漁業調整規則」を検索して、最新版の条文を自分で開いてください。 上の表は出発点で、正本は県のサイトにあります
  2. 県の水産担当課に電話して、その海域の共同漁業権の対象種と、委員会指示の有無をまとめて聞いてください。 規則本文に書かれていない2階層が、この一本で埋まります
  3. 迷ったら採らないでください。 見るだけなら、どこでも自由です

行き先を決めるところからなら素潜りの時期はいつ?が起点です。持っていくものは3つの約束と、県に確認した1つの答えだけです。

本記事は2026年8月21日時点で公開されている法令・規則・行政資料に基づく情報提供であり、法律の助言ではありません。個別の事案については、都道府県の水産担当課、漁業協同組合、または弁護士にご相談ください。