「漁港の堤防から海を覗いたら、魚がたくさん見えました。ここで潜っても大丈夫でしょうか」
この記事は、漁港でシュノーケリングや素潜りをしていいか迷っている方に向けて書いています。
答えから言います。漁港漁場整備法・港則法・港湾法のどれにも、遊泳や潜水を禁じる条文はありません。 禁止するかどうかを決めているのは都道府県の漁港管理条例で、明文で禁止し罰則もあるのは、確認できた範囲で北海道だけです。
持ち帰りは3つです。
- 法律には、漁港での遊泳・潜水を禁じる条文がありません。 決めているのは都道府県の条例です
- 条例で明文禁止し罰則もあるのは、確認できた範囲で北海道だけです。 沖縄・大阪・南房総市(千葉)の条例には、遊泳の語自体がありません
- 禁止されていない=潜ってよい、ではありません。 漁港は船の航路で、スクリューや係留ロープの危険があります
漁港で潜ることを、法律は禁止していますか
漁港のルールを定める法律は「漁港漁場整備法」(漁港の整備と管理を定めた法律)です。第39条5項は、何人も漁港の区域内で「みだりに」してはならない行為を定めています。禁じているのは施設の損傷・汚損、指定した物件の放置、その他政令で定める行為で、遊泳や潜水は挙げられていません。委任先の施行令にも「遊泳」「潜水」の語は出てきません。
港のルールを定めるもう2つの法律、港則法と港湾法も確認しました。どちらも全文検索で「遊泳」「水泳」「潜水」は0件でした。国の法律は、漁港や港での遊泳・潜水を名指しで禁止していません。
禁止できるのは、都道府県の条例です
漁港漁場整備法は、漁港の管理を都道府県などの管理者に委ねています。遊泳や潜水を規制するかどうかは、管理者が条例でどう定めるか次第です。次の表で県ごとの違いを見ていきます。
県ごとに何が違うのか
北海道・沖縄・大阪・南房総市(千葉の代替)の漁港管理条例は、本文まで確認しました。静岡・神奈川・三重・長崎は条例の存在は確認できましたが、本文までは確認できていません。
| 県・市 | 遊泳・潜水の明文禁止 | 罰則 | 確認状況 |
|---|---|---|---|
| 北海道 | ○ 指定区域内の遊泳禁止(潜水を含む) | 5万円以下の罰金 | 条例原文で確認 |
| 沖縄県 | 無し(禁止行為は施設損傷・機能妨害) | ー | 条例原文で確認 |
| 大阪府 | 無し(同上) | ー | 条例原文で確認 |
| 南房総市(千葉) | 無し(同上) | ー | 条例原文で確認 |
| 神奈川県 | 確認できず | 確認できず | 未確認 |
| 静岡県・三重県・長崎県 | 確認できず | 確認できず | 未取得 |
「確認できず」は、条例が無いという意味ではありません。今回調べた範囲で、公式資料に本文が見つからなかったという意味です。潜る前に、自分が行く県の条例を確認してください。
北海道だけが、明文で罰則付きです
北海道漁港管理条例は第6条で指定区域内の遊泳を禁止し、第20条で違反者に5万円以下の罰金を定めています。道は「遊泳には、潜水や体の一部を水に浸かり釣りをする行為も含みます」と説明しており、シュノーケリングも対象です。施行は2017年4月1日で、漁業者の操業などは適用除外です。
看板の「遊泳禁止」は、何が根拠ですか
条例に明文が無くても、現地に「遊泳禁止」の看板がある漁港は少なくありません。神奈川県は小田原漁港の立入禁止場所について「入るのは軽犯罪法違反です」と案内していますが、根拠となる条例名までは挙げていません。茅ヶ崎漁港も「漁業関係者以外、原則立入禁止」としていますが、根拠条例の記載はありません。
長崎県佐世保市は水産課のページで「漁業活動以外の利用(遊泳、魚釣りなど)につきましては、ご遠慮いただきますよう、お願いいたします」と案内しています。こちらは条例名を挙げておらず、禁止ではなくお願いです。
制度と現地の案内が、一致しているとは限りません
条例で明文禁止しているのは、確認できた範囲で北海道だけです。それでも現地の看板や案内は、それより広い範囲で「遊泳禁止」「立入禁止」を掲げています。看板の根拠が条例なのか、管理者の行政指導なのかは、看板の文言だけでは分からないことがあります。
禁止されていない漁港なら、潜っていいですか
いいえ。漁港は漁船の航路であり、出入り口です。船のスクリューや係留ロープが常にある場所で、遊泳者を想定した設計ではありません。海上保安部も、遊泳者やダイバーの近くを船が航行する危険を注意喚起しています。
第七管区(九州北部・山口)の統計では、過去10年間(平成25年〜令和4年)の夏の遊泳中事故が198名発生し、うち62名(58%)が死亡・行方不明でした。この数字は漁港に限った統計ではなく、海水浴全体のものです。潜る前の共通の注意は安全の原則にまとめています。
共同漁業権は、条例とは別に確認が必要です
サザエなど貝類や定着性の生き物は、漁港内でも共同漁業権(漁協が浅場で貝や生き物を採る権利)の対象になっている場合があります。遊泳や潜水そのものが条例で禁止されていなくても、採捕は別の規則にかかります。詳しくは素潜りでサザエ・アワビは違法?にまとめています。
この記事で確認できなかったこと
- 静岡・神奈川・三重・長崎の漁港管理条例の本文
- 漁港内に限定した潜水・遊泳事故の統計
- 各地の「お願い」が条例根拠か行政指導かの切り分け
次の一歩
- 自分が潜りたい漁港がある都道府県の名前で「漁港管理条例」を検索し、遊泳・潜水の規定を確認してください。 上の表は出発点で、正本は各県の公式サイトにあります
- 現地に看板があれば、まず内容と管理者の連絡先を確認してください。 条例か行政指導か分からない場合は、看板に書かれた窓口に直接聞くのが確実です
- 漁港での潜水を考えるなら、海の事故統計も確認してください。 船の往来がある場所は、条例の有無に関わらずリスクが高い水域です
法律から条例へと規制が委ねられる構造は、川でも同じです。川で素潜りはできる?に整理しています。
漁港内には、遊泳(潜水を含む)を規制する「遊泳禁止区域」が指定されています。平成29年4月1日から遊泳禁止区域内での遊泳は禁止です(同条例第6条)。違反をした者は、5万円以下の罰金を処せられることがあります(同条例第20条)。 — 北海道浜頓別町「漁港区域内の遊泳禁止について」
本記事は2026年8月23日時点で公開されている法令・規則・行政資料に基づく情報提供であり、法律の助言ではありません。個別の事案については、都道府県の水産担当課、漁業協同組合、または弁護士にご相談ください。
