「岩場で素潜りをしていたら、目の前に大きなサザエがいました。持って帰ったら違法ですか」
この記事は、そう迷っている方に向けて書いています。素潜りで見つけたサザエやアワビを、持ち帰っていいのかという問いです。
答えから言います。ほとんどの海岸で、個人が持ち帰っていい貝は基本的にありません。 共同漁業権と都道府県の漁業調整規則が二重にかかっているからです。合法に採れるのは、漁協や自治体が開く素潜り漁体験に参加したときだけです。
持ち帰りは3つです。
- サザエ・イセエビは、漁業権と県規則の二重で見られています。 体長と禁漁期の両方をクリアしても、漁業権の対象なら組合員以外は採れません
- アワビは、そもそも二重の話にすらなりません。 漁業権の有無に関係なく、遊漁者は一切採れません
- 唯一の合法ルートは、漁協・自治体の体験プログラムです。 「知らなかった」海で自己判断するより、そちらに乗るほうが早く確実です
貝には「岸のほぼ全域」に権利者がいます
浅い岩場やサンゴ礁は、多くの場合すでに漁業協同組合の縄張りです。水産庁は、採貝・採藻漁業を行う漁場でアワビ・サザエ等の貝類、ワカメ・コンブ等の海藻類を挙げています。エビやタコ等の定着性の水産動物も含め、組合員以外が採ると漁業権侵害として告訴される場合があると説明しています。
これは「第一種共同漁業権」と呼ばれる権利です。兵庫県の担当課は、自県の状況をこう説明しています。「ほとんどの沿岸海域(海岸から概ね1〜2キロメートルの範囲)に共同漁業権が設定されています」。足のつく浅場は、ほぼそのまま権利の中にあるということです。
千葉県が公表している対象種の一覧を見ると、巻貝類だけでもニシ・ツメタガイ・バイ・アワビ・サザエなど8種が並びます。海岸でよく見る貝の大半は、最初から誰かの権利の対象と考えたほうが安全です。
関東3県・関西3県の体長と禁漁期
前提が同じでも、県が変われば数字は変わります。関東の千葉・神奈川・静岡、関西の和歌山・兵庫・三重で、県の漁業調整規則が定める体長制限と禁漁期を並べました。
| 県 | サザエ | アワビ | イセエビ |
|---|---|---|---|
| 千葉 | 殻高7cm以下は採捕禁止・6/1〜6/30は禁漁 | 殻長12cm以下は採捕禁止・9/16〜翌3/31は禁漁 | 全長13cm以下は採捕禁止・6/1〜7/31は禁漁 |
| 神奈川 | 殻蓋長径3cm以下は採捕禁止 | 殻長11cm以下は採捕禁止・11/1〜12/31は禁漁 | 体長13cm以下・抱卵は採捕禁止・6/1〜7/31は禁漁 |
| 静岡 | 殻蓋径3cm以下は採捕禁止 | 殻長11cm以下は採捕禁止・10/1〜12/31は禁漁 | 体長13cm以下は採捕禁止・5/15〜9/15は禁漁 |
| 和歌山 | 規定を確認できず | 殻長10cm以下は採捕禁止・9/1〜翌2月末は禁漁(一部海域は10/1〜11/30) | 体長15cm以下は採捕禁止・5/1〜9/15は禁漁 |
| 兵庫 | 殻蓋径2.5cm以下は採捕禁止 | 殻長9cm以下は採捕禁止 | 規定を確認できず |
| 三重 | 殻蓋径2.5cm以下は採捕禁止 | 殻長10.6cm以下は採捕禁止・9/15〜12/31は禁漁 | 頭胸甲長4.2cm以下は採捕禁止・5/1〜9/30は禁漁(離島以北は〜9/15) |
規則は改正されます。潜る前に、その県の最新版を確認してください。
アワビだけは、共同漁業権が無くても採れません
上の表の体長・禁漁期は、あくまで県規則の話です。アワビには、これとは別の理由でもう一枚の壁があります。
漁業法第132条は「何人も、特定水産動植物(略)を採捕してはならない」と定めています。アワビ・ナマコ・シラスウナギはこの特定水産動植物に指定されています。共同漁業権が設定されていない海域でも、遊漁者は一切採れません。 違反すれば第190条により3年以下の拘禁刑または3,000万円以下の罰金です。この額は令和2年12月の法改正で新設され、個人への罰金としては最高額になりました。
サザエ・イセエビは「漁業権の対象になっていなければ、体長と禁漁期を守れば採れる」余地が残ります。アワビにはその余地自体がありません。
サザエ・イセエビは、体長と禁漁期の二重でふるいにかけられます
サザエ・イセエビは特定水産動植物ではありません。共同漁業権が設定されていない海域、または対象になっていない場合には、県規則の体長・禁漁期を守れば理屈のうえで採れます。ただし千葉県の説明どおり、イセエビが漁獲される地域のほとんどで共同漁業権が設定されています。その区域では、県規則の数字に関係なく組合員以外は採れません。
漁業権侵害の罰則は漁業法第197条で、100万円以下の罰金です。県規則そのものへの違反は、漁業法第119条の枠組みで6月以下の拘禁刑または10万円以下の罰金と定められています。
唯一の合法ルート ー 漁協・自治体の素潜り漁体験
見つけた京都府の例を2つ挙げます。京都府舞鶴市の野原地区では、サザエの素潜り漁体験が実施されています。料金は公開されておらず、野原観光協会への電話問い合わせが窓口です。
京丹後市の琴引浜では「一日漁師体験」という形で、7月1日から8月のお盆明けの日曜日まで開かれています。販売所で申込書に記入し、5,000円(保証料2,000円を含む)を払うと参加できます。もらえるのはリストバンド式の「漁師証」とベストです。当日17時までにベストを返せば保証料は戻るので、実質3,000円です。対象は殻蓋直径2センチメートルを超えるサザエ・アワビ・タコ・海藻類などで、それ以下は体験の中でも禁止です。
関東でも同種の体験は各地の漁協にあるようです。ただし料金と条件を県・自治体の公式ページで確認できたのは、今回は関西の2件にとどまりました。
この記事で確認できなかったこと
- 関東(千葉・神奈川・静岡)で、料金と条件を公式ページから確認できる素潜り漁体験プログラム
- 和歌山県漁業調整規則における、サザエの体長制限・禁漁期の規定の有無
- 兵庫県漁業調整規則における、イセエビの体長制限・禁漁期の規定の有無
次の一歩
- 自分が潜る県の名前で「◯◯県漁業調整規則」を検索し、最新版の体長・禁漁期を自分で確認してください。 上の表は出発点で、正本は県のサイトにあります
- その海域に共同漁業権が設定されているか、地元の漁業協同組合か県の水産担当課に聞いてください。 規則本文だけでは判断できない部分です
- 合法に採ってみたいなら、漁協・自治体の素潜り漁体験を探してください。 迷ったときの一番早い答えです
道具の話は素潜りで魚突きは違法?にあります。潜る前の共通の注意は安全の原則にまとめています。行き先を探すなら素潜りの時期はいつ?が起点です。
何人も、特定水産動植物(略)を採捕してはならない。 — 漁業法第132条第1項
本記事は2026年8月23日時点で公開されている法令・規則・行政資料に基づく情報提供であり、法律の助言ではありません。個別の事案については、都道府県の水産担当課、漁業協同組合、または弁護士にご相談ください。
