「スクーバの後に潜っただけなのに、ふらついて手に力が入りませんでした。素潜りでも減圧症になるんでしょうか」

この記事は、深く何度も潜るスタイルの方、スクーバダイビングと素潜りを同じ日にする方に向けて書いています。窒素がたまる条件を先に知っておくと、防げる場面があります。

答えから言います。なります。ただし条件つきです。 深い深度を、短い休憩で、何十回も繰り返す潜り方をしたときに、脳や神経に減圧症と同じ仕組みの障害が起きた症例が日本にあります。

持ち帰りは3つです。

  1. 日本の症例は「深度20〜30mを6時間で約150回」という反復潜水でした。 レジャーの浅い素潜りにそのまま当てはめられる数字ではありません。
  2. 海女(あま)の調査では「深く・長く・休みが短い」ほど症状が出ていました。 錘を使う潜り方は、発症率がひとケタ違いました。
  3. スクーバダイビングの後に素潜りをするのは避けてください。 PADIは12〜24時間の間隔を置くよう勧めています。

ブラックアウトとは別の話です

素潜り中に意識を失う「ブラックアウト」(浅い水深での酸欠による失神)は、今回の話とは仕組みが違います。ここで扱う減圧症は、深い潜水を繰り返して体内に窒素がたまることで起きます。意識を失ったときの対処は素潜り中に意識を失ったら?にまとめました。ここでは窒素の話に絞ります。

日本で実際に何が起きたか

61歳の素潜り漁師(潜水歴37年)が、深度20〜30mの潜水を6時間で約150回繰り返しました。急速な浮上を反復した後、ふらつきと右手の握力低下が出ています。頭部CTで左の頭頂葉に気泡の陰影が見つかり、脳型減圧症と診断されました。高気圧酸素療法で改善しています。この方は40歳のときにも減圧症を経験していました。2012年の論文の時点で、日本では素潜り漁で脳障害を発症した報告は、この症例を含めて6例でした。

何が「危ない条件」なのか

日本の症例と、海女を対象にした調査(Tamaki 2010)から、条件と数値を並べました。

項目 数値 出典
日本の症例の潜水条件 深度20〜30mを6時間で約150回反復 松尾ほか 2012
日本の症例の年齢・経験 61歳・潜水歴37年 松尾ほか 2012
日本での脳障害の報告数(2012年時点) 本症例を含め6例 松尾ほか 2012
症状が出た群の潜水深度 平均15m(出なかった群より深い) Tamaki 2010
症状が出た群の潜水時間 平均63秒(出なかった群より長い) Tamaki 2010
症状が出た群の水面での潜水間隔 平均26秒(出なかった群より短い) Tamaki 2010
錘を使う漁法(舟人)の発症率 29人中11人 Tamaki 2010
錘を使わない漁法(徒人)の発症率 144人中1人 Tamaki 2010
スクーバ後→素潜り(単発無停止潜水後) 12時間 PADIブログ
スクーバ後→素潜り(反復・複数日潜水後) 18時間 PADIブログ
スクーバ後→素潜り(減圧停止が必要だった潜水後) 24時間 PADIブログ
海女の調査で、錘を使う漁法(舟人)29人中11人が神経症状を発症し、錘を使わない漁法(徒人)は144人中1人だった比較。
図: Tamaki H et al. 2010「A survey of neurological decompression illness in commercial breath-hold divers (Ama) of Japan」からBLUE BREATHが作成(2026年8月23日時点)。

数字は海女という職業的な潜り方の調査であり、レジャーの素潜りをそのまま代表するものではありません。

錘を使う潜り方は、発症率がひとケタ違います

錘を使って潜る「舟人(ふなど)」という漁法は、29人中11人が脳卒中様の症状を経験していました。一方、補助を使わない「徒人(かちど)」は144人中1人でした。深く速く潜れる分、体内にたまる窒素の量も増えると考えられます。

スクーバの後に素潜りをしないでください

スクーバダイビングで吸った圧縮空気の窒素が体内に溶け込んだまま、間を空けずに素潜りをすると、減圧症のリスクが重なります。PADIは、単発の無停止潜水の後は12時間、反復潜水や複数日にわたる潜水の後は18時間、減圧停止が必要だった潜水の後は24時間の間隔を置くよう勧めています。迷ったら、長いほうの24時間を取ってください。

ふらつきや手に力が入らない症状は、受診の目安です

潜水後にふらつきが続く、手や足に力が入らない、感覚がおかしいといった症状が出たら、減圧症を疑ってください。日本の症例も、最初の症状はふらつきと手の握力低下でした。様子を見ず、高気圧酸素治療ができる医療機関を受診してください。潜る前の共通の注意は安全の原則にまとめています。

この記事で確認できなかったこと

  • レジャーの浅い素潜り(5〜10m)についての疫学データ。
  • AIDA(国際団体)が定める素潜り同士の水面休息の公式ルール。
  • PADIの指導者向け教材における素潜り後の待機時間の記載。

次の一歩

  1. 自分の潜り方が「深く・短い休憩で・何度も」に当てはまらないか、振り返ってください。 表の条件に近いほどリスクが上がります。
  2. スクーバダイビングをした日は、素潜りを翌日以降に回してください。 PADIの目安は最短12時間、安全側なら24時間です。
  3. 潜水後にふらつきや脱力が出たら、すぐに医療機関を受診してください。 我慢して様子を見るのは避けてください。

深く潜るトレーニング自体の危険は素潜りトレーニングの危険性に、初心者が潜れる深さの目安は素潜り初心者はどこまで潜れる?にまとめています。スクーバから素潜りを始める方の注意点はスクーバダイバーが素潜りを始めるときにあります。

“Extension of the surface interval between the two breath-hold dives appears to prevent neurological symptoms”(2回の素潜りの間の水面休息を延ばすことが、神経症状を防ぐと考えられる) — Divers Alert Network「Neurological Injury After Breath-Hold Diving Related to Gas Bubble in Brain」

本記事は2026年8月23日時点で公開されている論文・団体の公表情報に基づく情報提供であり、医療の助言ではありません。体調の変化を感じた場合は、医療機関を受診してください。