「潜って浮かんできたら、口の中に血の味がしました。鼻血も出ています。何が起きたんでしょうか」
この記事は、素潜り中や浮上した直後に鼻血が出て、原因が分からず不安な方に向けて書いています。
答えから言います。多くは副鼻腔スクイーズ(サイナスの気圧外傷)です。 鼻づまりで副鼻腔の入口(自然口)が塞がったまま潜ると、その空間だけが大気圧のまま取り残されます。内側が陰圧になり、粘膜の毛細血管が充血して破れます(DAN)。
持ち帰りは3つです。
- 潜降中の顔面痛のあと、浮上後に出る鼻血は、副鼻腔スクイーズです。 自然口が鼻づまりで塞がり、陰圧になった空間で粘膜の血管が破れます
- 浮上中に出るなら、リバースブロックです。 潜降時の圧平衡不足か、点鼻薬の効果切れが原因です(TUSA)
- マスクの中だけの血は、マスクスクイーズという別の原因です。 鼻からは出ません
原因は5つに分かれます、見分け方は「いつ」と「どこ」です
潜降時か浮上時か。鼻から出るかマスクの中だけか。この2軸で原因は5つに整理できます(DAN・TUSA)。
| 原因 | いつ出るか | 機序 | 見分け方 |
|---|---|---|---|
| 副鼻腔スクイーズ | 潜降時 | 自然口が鼻づまりで塞がり、陰圧になって粘膜の血管が破れる | 潜降中の鋭い顔面痛(額・目の奥・頬)→浮上後に鼻血や血の混じった鼻水 |
| リバースブロック(圧平衡不足) | 浮上時 | 潜降時の腫れが排出経路を塞ぎ、ガスと血が閉じ込められる | 浮上中の顔面痛→浮上後に鼻血 |
| リバースブロック(点鼻薬切れ) | 浮上時 | 潜降時は通っていた鼻が、浮上時に薬効切れで鼻づまりに戻る | 潜降は普通、浮上時だけ痛む |
| マスクスクイーズ | 潜降時 | マスク内の陰圧が顔・目の血管を圧迫する | 血はマスクの中(皮膚・目の周り)にとどまり、鼻からは出ない |
| 蝶形骨洞バロトラウマ | 稀 | 内頸動脈・視神経に近い蝶形骨洞に圧の外傷が及ぶ | 強い頭痛と視力の異常を伴う。重症のサイン |
マスクの中の血だけは、別の話です
マスクスクイーズは鼻血ではなく、マスク内の陰圧が顔や目の血管を圧迫して起こります。血はマスクの中に留まり、鼻からは出ません。TUSAは「ひどい時は顔や目の血管を痛めたり、マスクの装着跡がしばらく残ってしまう場合がある」と説明しています。マスクの扱い方は素潜りで目が痛いのはなぜ?にまとめています。
潜る人の49%が経験しています
フィンランドの潜水者1,881名(回答率27%)を対象にした調査では、49%が潜水中に副鼻腔の気圧外傷を経験していました。リスク因子は3つでした。花粉アレルギー(オッズ比1.59)、喫煙(同2.04)、年3回以上の上気道感染(同2.76)です(Lindfors 2021)。
潜降時のほうが浮上時より多く起きます
別の調査では、潜降時の気圧外傷の発生は浮上時の約2倍と報告されています。症状は痛みが92%で最も多く、鼻血は2番目に多い症状でした(Fagan 1976)。
点鼻薬は「治療」と「事前使用」で話が違います
DANの説明はこうです。副鼻腔の圧平衡ができないまま潜降すると、その空間が陰圧になります。粘膜の毛細血管が充血して破れます。
The capillary vessels of the mucous membranes lining the sinuses engorge and burst. — DAN (Divers Alert Network) “Sinus Barotrauma”
一方、点鼻薬で無理に鼻を通して潜るとどうなるか。潜降時は平気でも、浮上時に薬効が切れてリバースブロックを起こすことがあります。TUSAは次のように説明しています。
点鼻薬を使ったため、潜降時は鼻が通っていたのに、浮上時は薬効が切れて鼻づまりの状態になってしまった場合等に起こる可能性があります — TUSA「マスク&スノーケル取扱説明書」第13版
DANも、市販の即効性スプレーを繰り返し使うと反跳性の症状が出て、かえってリバースブロックを招くとしています。点鼻薬は自己判断で潜る前に使う道具ではなく、医師の治療方針に沿って使うものです。
鼻づまり・風邪のときは、そもそも潜らないでください
TUSAは「風邪をひいたり、鼻づまりをおこしている状態の時には、ダイビングを行わないでください」としています。DAN JAPANも同じです。風邪のときは耳のリバースブロックや副鼻腔スクイーズを起こしやすいので、ダイビングをやめるよう呼びかけています。
この記事で確認できなかったこと
- 日本の潜水医学会・耳鼻咽喉科学会による一般向けの解説
- DAN JAPANの資料に「鼻血」という語そのものが明記されているか
- Uzun 2005の内容(要約しか読めず、原文を確認できませんでした)
次の一歩
- 潜降中に顔面痛や鼻血が出たら、すぐに潜降を止めて浅い水深に戻ってください。 無理に沈み続けると悪化します
- 鼻づまりや風邪のときは、潜水を見送ってください。 TUSAもDAN JAPANも共通してそう呼びかけています
- 鼻血を繰り返す、または顔面の痛みが続く場合は、耳鼻咽喉科など医療機関を受診してください。 自己判断で点鼻薬を使い続けるのは避けてください
耳抜きのやり方は耳抜きができないとき、最初に変えるのは力ではなくやり方にあります。鼻づまりのときの耳抜きは鼻水・鼻づまりで耳抜きしていい?です。潜る前の共通の注意は安全の原則をご覧ください。
本記事は2026年8月23日時点で公開されている医学・製品情報に基づく情報提供であり、医療上の助言ではありません。症状がある場合は、医療機関を受診してください。
