「素潜りって、初心者だと何メートルくらい潜れるものなんですか」

この質問をすると、たいてい「人による」と返ってきます。それは本当ですが、答えになっていません。団体のコース要件を見に行くと、実は数字で答えられます。

この記事は、素潜りを始めたばかりで「自分はどこまで行っていいのか」が分からない方に向けて書きました。結論から言うと、最初の線は、団体が違っても8〜16mに収まっています。 そして、その線がなぜそこにあるのかには、圧力の物理で説明できる理由があります。

使ったのは、AIDA・PADI・SSI・Molchanovs・Apnea Academyの公式ガイドラインと、器材メーカーの取扱説明書、現地の届け出のページです。数字はすべて2026年8月22日時点の公式ページによります。

持ち帰りは3つです。

  • 入門コースの上限はAIDAで10m、PADIで10〜16m、Apnea Academyで8m。線はそこにある
  • 10mで圧力は2倍、肺は半分。最初の10mが、いちばん体が変わる区間
  • 深く潜るより先に、水面で見ていてくれる人と、潜ってから次に潜るまでの時間が要る

団体のコースに書いてある数字

まず、数字を並べます。団体名と段階の名前は、2026年8月時点の公式ページのままです。

各団体のコース要件にある最大深度を横棒で並べた図。AIDA1は10m、Apnea Academy 1は8m、PADI Freediverは16m、SSI Level 1とMolchanovs Wave 1とAIDA2は20m、Apnea Academy 2は15m、PADI Advancedは24m、Apnea Academy 3は25m、AIDA3は30m、PADI Masterは40m。最初の段階は団体が違っても8〜16mに収まる。
図: 各団体の公式ガイドライン・コース案内(2026年8月22日時点)から BLUE BREATH が整理。

いちばんはっきり書いているのはAIDA

いちばんはっきり書いているのがAIDAです。入門コースのガイドラインには、海での最大深度を10mに限ると書いてあります。

In open water, the maximum depth of the freedives should be fixed by the Instructor based on the students’ ability and limited to not more than 10m by setting the end of the dive-line to that maximum depth. — AIDA1 Freediver Guidelines v3.1

日本語にすると「海では、インストラクターが受講生の能力に基づいて最大深度を決め、ダイブラインの端をその深さに設定することで10mを超えないようにする」です。ロープの長さで、物理的に止めている。 本人の気合いや判断ではなく、線そのものが10mで終わっています。

次の段階のAIDA2は「少なくとも12m、最大20m」、AIDA3は「少なくとも24m、最大30m」。PADIは公式FAQで、Freediverが10〜16m、Advanced Freediverが16〜24m、Master Freediverが24〜40mとしています。SSIのLevel 1は「最大トレーニング深度20m」、MolchanovsのWave 1は「12〜20mを楽に潜る」です。イタリアのApnea Academyは1段目が8m、2段目が15m、3段目が25mです。

つまり、最初の段階の線は8〜16m、次の段階で20〜25m、その次で30〜40m。 団体が違っても階段の幅は同じくらいです。「人による」のは、この階段のどこにいるかの話であって、階段そのものは決まっています。資格団体の違いはフリーダイビングの資格を比べた記事に書きました。

なぜ10mに線があるのか

10mで、周囲の圧力が水面の2倍になります。フリーダイビング指導者のEmma Farrellは、わずか10m潜るだけで圧力は2倍になる、水は空気よりはるかに密度が高いからだ、と書いています。空気の中では、山に登っても圧力はゆっくりしか変わりません。水の中では、10mごとに1気圧ずつ増えます。

圧力が2倍になると、肺の中の空気の体積は半分になります。水面で胸いっぱいに吸った空気が、10mでは半分の大きさに押し縮められています。最初の10mは、同じ10mでも体の中で起きる変化がいちばん大きい区間です。 20mから30mへ行くときの変化(3気圧から4気圧)より、水面から10mへ行くときの変化(1気圧から2気圧)のほうが、割合としては大きい。

耳抜きがいちばん忙しいのも、この区間です。3mで耳が痛くなる理由耳抜きの練習は別の記事に書きました。入門コースの線が10mにあるのは、この「いちばん変化が大きい区間」を、見てくれる人のいる中で通るためです。

深さより先に、回数と間隔

深さの話をすると、もう一つ抜けやすいことがあります。1回の深さより、繰り返しのほうが体に残るということです。

AIDAの上位コースの教本は、潜ってから次に潜るまでの水面休息について、2つの計算を勧めています。「水面休息は潜水時間の少なくとも2倍」と「深さ(m)÷5=分」で、30mなら6分、40mなら8分です。

The surface interval equals at least double the dive time. The depth in metres divided by 5 equals the surface time in minutes. — AIDA4 Master Freediver Manual v1.03

長いほうを採ります。さらに、55mより深い潜水の後は他の潜水をせず、24時間に1本だけ、ともあります。

これは減圧症(繰り返し潜ることで体に溜まった窒素が、浮上後に気泡になる状態)を避けるためです。息を止めた潜水でも、深く繰り返せば起きます。南伊豆のヒリゾ浜の運営は、10m以上の深い潜水を繰り返すフリーダイビングでは国内でも減圧症の事例が報告されている、と書いています。同じページには、2024年にヒリゾ浜で減圧症が疑われる症状で救急搬送された事例があったことと、深く潜る可能性がある場合は事前の届け出を求めることが書かれています。ヒリゾ浜の記事に詳しく書きました。

初心者が10mの線を気にしているとき、本当に気にすべきなのは「10mを1回」ではなく「8mを20回、休まずに」のほうです。

シュノーケルをくわえたまま、深くは潜らない

もう一つ、初心者に特有の話があります。シュノーケルをくわえたまま潜ることです。

器材メーカーのTUSA(株式会社タバタ)の取扱説明書に、こうあります。

スキンダイビングで水中に潜った際、深い所に行けば行くほど、周囲の水圧が高くなるため、パイプ内の圧力が低くなります。これによって、口元が吸い込まれるような感覚が起きて舌や歯茎に痛みを感じる場合がありますので、あまり深く潜らないでください。 — TUSA マスク・スノーケル取扱説明書

潜ると、シュノーケルの管の中だけ水面の圧力のままで、口の中は水圧で押されます。その差で口元が吸い込まれます。メーカー自身が「あまり深く潜らないでください」と書いています。シュノーケルをくわえたまま行ける深さは、団体の線より手前にあります。器材の選び方は最初に買うのは2つだけに書きました。

この記事で確認できなかったこと

  • AIDA4の合格基準の深度(教本に「レクリエーションの限界は38m」の記述はあるが、合格要件の数値表は見つからず)
  • SSI Level 2・3、Molchanovs Wave 2・3の深度(公式の原文を直接確認できず、図に入れていません)
  • シュノーケルの長さの規格(メーカー・規格の原文で未確認)

次の一歩

深さを伸ばしたいなら、順番はこうなります。

  1. 10mより先は、講習の中で行ってください。 入門コースの線がそこにあるのは、そこまでを見てくれる人のいる中で通るためです。線を自分で動かさないでください
  2. 潜った時間の2倍、水面で休んでください。 深さより先に、回数と間隔です。8mを休まず繰り返すほうが、10mを1回より体に残ります
  3. シュノーケルは、潜る前に口から外してください。 メーカーが「あまり深く潜らないでください」と書いています

まず、自分がいま「何mまで見てもらったことがあるか」を数えるところから始めてください。その数字が、いまの線です。一緒に潜って見てくれる人を探すなら、下の「近くの練習会を探す」から都道府県で引けます。海で守るのはこの3つだけです。

本記事は各団体の公式資料の2026年8月22日時点の記述に基づく情報提供です。コース要件は改訂されます。受講前に各団体の最新のガイドラインをご確認ください。