海に入って、いざ潜ろうとしたら沈めなかった、という経験はないでしょうか。必死にキックしても体が斜めになるだけで進まず、そのうち息が苦しくなり、結局あきらめて浮き上がることになります。

はじめてスキンダイビングをした方の多くが、最初にぶつかるのがこれです。そして、たいていの人が原因を脚力だと考えます。ですが実際には、脚力の問題ではありません。逆らっている相手が違うというのが正しい説明になります。この記事は、海で潜ろうとして沈めなかった方に向けて書きました。

持ち帰りは3つです。

  • 沈めないのは脚力ではなく、浮力の問題です。 ウェットスーツと肺の空気が、水面のあなたを押し返しています
  • 上半身を折って、脚を空に向けてまっすぐ伸ばす。 脚が水に入りきるまで、キックは待ちます
  • ウェイトで解決するのは、いちばん最後です。 重すぎるウェイトは、浮上できない側に効きます

ここから下は、その根拠です。急ぐ日は、上の3つだけ持って海に行ってください。


水面のあなたは、押し返されています

体を浮かせているのは、筋肉でも脂肪でもなく気体です。ウェットスーツのゴムに閉じ込められた無数の気泡と、肺に入っている空気。この2つが浮き袋として働いています。

厚さ5mmのスーツで水面の浮力が4kg相当、肺の空気で3kg相当と置くと、ウェイトを4kg着けていても正味で3kgぶん押し返されている計算になります。この状態で真下に進もうとするのは、浮き輪を抱えたまま潜ろうとするのと同じことです。

そして、もうひとつ厄介な事情があります。脚が空中にあるうちにキックしても、蹴っているのは水ではなく空気です。推進力はほとんど生まれません。つまり多くの人は、効かない場所で効かない力を出しています。


だから「折って、脚の重さを使う」順番になります

潜降の動作をダックダイブと呼びます。アヒルが水面で頭から潜る動きに似ているためです。手順そのものは単純です。

  1. 息を吸って、水面でうつ伏せに浮く
  2. 腰から上半身を折り、頭を真下に向ける
  3. 脚を空に向けて、まっすぐ伸ばす
  4. 脚が水に入りきってから、はじめてキックする

肝心なのは3番目です。空中に持ち上げられた脚には浮力が働かないので、その重さがそのまま体を押し下げる力になります。体を沈めるのではなく、体の重い部分を空気中に出す、という考え方に近いところがあります。

よくある失敗は、キックが早すぎることです

うまくいかない方の多くは、脚がまだ水面にあるうちにキックを始めています。焦る気持ちは自然ですが、ここは待ったほうが速く沈みます。脚が完全に水中に入るまで、ひと呼吸おいてください。

もうひとつ多いのが、頭を下に向けきらないまま進もうとするパターンです。体が水平に近いまま前に進むと、浮力に対して斜めに逆らうことになり、いちばん力を使う角度になります。真下を向けているかどうかは、自分では意外と分かりません。誰かに見てもらうか、動画に撮ると一目で分かります。


深くなると、勝手に沈むようになります

ここからが、多くの入門記事に載っていない部分です。浮力は一定ではありません。体を浮かせているのが気体である以上、水圧で縮むからです。

水深10mで圧力は水面の2倍になり、気体の体積はおよそ半分になります。ウェットスーツの気泡も、肺の空気も同じように縮みます。つまり潜れば潜るほど、あなたを押し返す力は弱くなっていきます。

深度ごとの正味の浮力を示した折れ線グラフ。水面では正味プラス3.0kg相当で押し返されるが、深くなるにつれて浮力が減り、7.5mでゼロになる。それより深いところではマイナスに転じ、30mではマイナス2.25kg相当まで落ちる。
図: 5mmウェットスーツと肺の空気で水面の気体由来浮力を7.0kg相当、ウェイトを4.0kgとしてボイルの法則から計算した値です。実測ではなく、器材と体格で大きく動きます。

この条件では、7.5m あたりで浮力と重さが釣り合います。それより深いところでは正味の浮力がマイナスになり、手足を止めていても沈んでいきます。この状態をフリーフォールと呼びます。

つまり、大変なのは最初の数メートルだけです

浮力の曲線を見ると、いちばん強く押し返されているのは水面付近で、そこを抜ければ抵抗は急速に小さくなります。潜降でいちばん力が要るのは、最初の数メートルということになります。

裏を返せば、そこさえ越えれば体が勝手に進んでくれます。「深いほど大変になる」という直感は、少なくとも潜降に関しては逆です。この続きは「深いほど戻れなくなる」は本当かで扱います。


ウェイトで解決する前に

沈まないという悩みは、ウェイトを足せばその場では消えます。ただ、順番としては最後に回してください。

理由は、いま見たとおりです。困っているのは水面付近だけで、深いところでは逆に浮力が足りなくなります。潜り方が固まる前にウェイトを増やすと、水面で楽になるかわりに、深いところで沈みすぎる状態を同時に作ることになります。

そして、多すぎるウェイトはこの競技で最も危険な選択の一つです。浮上の途中で力尽きたとき、体が浮いてくれないためです。適正量はスーツの厚み・体格・淡水か海水かで変わるので、この記事では具体的な数字を書きません。現場で、見ている人がいる状態で、少しずつ調整してください。

息を吐いてから潜って沈みやすくする、というやり方も見かけますが、こちらも勧められません。肺の空気は浮力であると同時に、潜っている間に使う酸素そのものだからです。


この記事で確認できなかったこと

  • 浮力が釣り合う深度の実測値。 本文の7.5mは、条件を決めて計算した数字です。実際の中性浮力点はスーツの厚みと経年、ウェイト量、体組成、塩分濃度で大きく動きます。指導団体が標準値を公表している例は見つかりませんでした。

  • ウェットスーツの浮力のメーカー公表値。 「5mmで4kg前後」は一般に流通している目安であって、メーカーが仕様として浮力を公表している例には行き当たっていません。

  • ダックダイブの成功率や習得にかかる時間。 講習で何回目に成功する人が多いか、といった数値を示した資料は見つけられませんでした。本文の手順は各団体の教材に共通して書かれている構成に沿ったものです。


次の一歩

脚力ではなく浮力の問題だと分かれば、やることは変わります。

  1. 次に海に入ったら、まず「沈む深さ」を確かめてください。 息を吐き気味にして、力を入れずに沈むかどうか。沈まないなら、そもそも足で解決する問題ではありません
  2. ウェイトは、必ず人に見てもらって決めてください。 ひとりで足すのがいちばん危険です。適正より重いと、浮上できない側に倒れます
  3. ダックダイブ(頭から入る動作)は、浅いところで形だけ繰り返してください。 深さを追う前に、上半身を倒して脚を空中に立てる形が身につけば、力はほとんど要りません

下の「近くの練習会を探す」で、見てくれる人がいる場所を都道府県から探せます。海で守ることは安全の約束(3つ)の3つだけです。それさえ持っていれば、あとは沈む感覚を覚えるだけの、いちばん楽しい時期になります。