「シュノーケリングで溺れるって、どういうこと? 水面に浮いているだけなのに」
潜るわけでも、息を止めるわけでもありません。浮いて、下を見ているだけです。それで人が亡くなると聞くと、たいていの人は「水を飲んだんだろう」で片づけます。私も最初はそう思っていました。
この記事は、初めてシュノーケリングをする方と、1人で入ろうとしている方に向けて書きました。答えから言います。「水を飲んで溺れる」は、調べた限り主な順番ではありません。 典型は、急に息が苦しくなるところから始まります。その順番を知っているかどうかで、海で打てる手が変わります。
使ったのは、海上保安庁と警察庁の統計と、ハワイ州で3年かけて行われた調査の最終報告です。
持ち帰りは3つです。
- 沖縄では、海のレジャーで亡くなる人の活動として、スノーケリングがいちばん多い。10人に4人が戻らない
- 溺れるまでの典型は 息苦しさ → パニック → 意識が薄れる。水を飲むのは、まれ
- 亡くなった人の87%がライフジャケットを着けていなかった。そして、着けていても息苦しさは止められない
沖縄では、スノーケリングがいちばん多く、いちばん重い
まず数字から見ます。第十一管区海上保安本部(沖縄を管轄する海上保安庁の地方本部)の、2021年から2025年までの5年間の集計です。
| 活動 | 事故者 | うち死者・行方不明 | 割合 |
|---|---|---|---|
| スノーケリング中 | 154人 | 63人 | 41% |
| 遊泳中 | 84人 | 19人 | 23% |
| ダイビング中 | 82人 | 25人 | 30% |
| SUP中 | 42人 | 3人 | 7% |
| 釣り中 | 33人 | 9人 | 27% |
| 合計 | 469人 | 129人 | 28% |
事故にあった人の数でも、亡くなった人の数でも、スノーケリングが一番上です。割合で見ると、10人に4人が戻りません。 遊泳の10人に2人より重く、ダイビングの10人に3人より重い数字です。
この「事故にあった人のうち何人が亡くなったか」の比較ができるのは沖縄だけです。海上保安庁の全国統計には「スノーケリング中」の区分がありません。警察庁の統計には区分があり、2025年に全国でシュノーケリング中に亡くなった・行方不明になった人は29人(スキューバダイビングは16人)でした。ただし亡くなった人だけを数えていて、母数がないので割合は出せません。数え方の違いは素潜りの事故は年に何件?に書きました。
静岡県警の2025年夏の資料でも同じ形が見えます。シュノーケリング中の事故は2件で、2人とも亡くなり、無事に救出された人は0人でした。件数は少なく、起きると戻らない形です。沖縄と同じです。
水を飲んで溺れる、ではなかった
では、何が起きているのか。ハワイの調査を引きます。
ハワイ州は観光客のシュノーケリング中の死亡が続いたことを受けて、州観光局の助成で Snorkel Safety Study という調査を行い、2021年6月に最終報告を出しました。溺れた人と、溺れかけて戻ってきた人の事例を集めた調査です。
結論は、スノーケル誘発性の急性肺水腫(SI-ROPE)が、スノーケリングに関連する溺水と溺水寸前の事例に共通する要因だ、というものでした。肺水腫とは、肺の中に体液がしみ出して溜まり、空気が入る場所が減る状態です。水を外から吸い込むのではなく、体の内側から肺に水が溜まります。 だから水面に顔を出していても起きます。
調査に答えた人たちの報告では、水を吸い込むこと(誤嚥)が引き金になったことはまれ、経験不足が要因になったこともまれ、ほとんどすべての事例が足のつかない場所で起きていました。報告には、レクリエーションのシュノーケリングはリスクの低い穏やかな活動ではなく、それは経験のある人にも当てはまる、という趣旨の一文があります。
溺れるまでの順番
報告が示した典型的な順番は、3段です。
- 急な息苦しさ(疲れ、力が抜ける感じ)
- パニック(「まずい」「助けが要る」という感覚)
- 意識が薄れていく
「水を飲んでむせて、あわてて、沈む」ではありません。最初に来るのは息苦しさです。調査は、この先頭で手を打つよう勧めています。息切れは危険の合図であり得る、落ち着いてスノーケルを外し、ゆっくり深く呼吸し、立ち上がって、すぐに水から出る、と書いています。「なんか苦しいな」を、疲れだと思って続けないこと。 これがいちばん持ち帰ってほしいことです。
報告が挙げた危険因子は、①スノーケルの吸い込みの抵抗 ②心臓や血管の持病 ③運動の強さ、の3つです。細い管や小さなマウスピースは避けるよう勧めています。フルフェイスマスクは、答えた人の38%が使っていて、その90%が「一因になった」と考えていました。
1人で入ると危険な理由
報告の「次の一歩」の章は、スノーケルに関連する事故はしばしば素早く、目立ったもがきなしに起きるため、観察者でさえ苦しんでいる人と楽しんでいる人を見分けにくい、と書いています。
Snorkel-related incidents often occur quickly and without obvious struggle, making it difficult for observers to distinguish a person in distress from one enjoying the activity. — Snorkel Safety Study, Final Report
つまり、もがきません。 水面にうつ伏せで浮いたまま、意識が薄れていきます。1人なら、見分ける人がそもそもいません。
海上保安庁のウォーターセーフティガイド(海のレジャーの安全の手引き)も、2人組やグループで行動し、常にお互いの体調を確認するよう書いています。「お互いの体調を確認する」が入っているのは、1段目が「息苦しさ」だからです。「ちょっと苦しい」と言える相手がいるかどうかで、1段目で止まれるかが決まります。
足がつく場所にいる、という線
報告の勧めに「足が楽につく場所にとどまりなさい」があります。「浅いところは安全」ではなく、息苦しくなった瞬間に立てるかどうかの話です。立てれば、スノーケルを外して歩いて出られます。立てなければ泳いで戻ることになり、その泳ぎが「運動の強さ」という危険因子を押し上げます。
ライフジャケットは、沈まないためのもの
沖縄の資料には、もう一つ数字があります。
過去5年間における事故者238人のうち、ライフジャケット非着用者は194人(82%)であった。死者・行方不明者82人のうち、ライフジャケット非着用者は71人と全体の87%を占めた。 — 第十一管区海上保安本部(スノーケリング中・遊泳中)
着けていれば、意識が薄れても顔が水面に出る形を保ちやすくなります。ただし、ライフジャケットが保証するのは「沈まない」であって、「息苦しくならない」ではありません。着けたうえで、苦しくなったら上がる。 片方では足りません。沖縄の一部の海で着用が決まりになっていることは泳げなくても大丈夫?に書きました。
この記事で確認できなかったこと
- 全国でスノーケリング中に事故にあった人の母数(警察庁は亡くなった人だけを行為別に数えている)
- 日本の事例でのSI-ROPEの割合(ハワイの結論を日本の統計に当てはめた公的資料は見つからず)
- 飛行機で来た直後に起きやすいかどうか(ハワイの報告は「可能性を強く支持するが確認できなかった」)
次の一歩
初めてシュノーケリングをするなら、順番はこうなります。
- 泳げないなら、しないでください。 ハワイの報告の勧めの2つ目は「泳げないなら、シュノーケリングをしない」です。泳げない方が海を見る方法は別に書きました
- 1人で入らないでください。 もがかずに沈む事故を見つけられるのは、隣で見ている人だけです。海で守るのはこの3つだけです
- 「なんか苦しい」を、疲れだと思わないでください。 スノーケルを外して、立てる場所へ、すぐ上がってください
まず、隣で見ていてくれる人を1人決めるところから始めてください。一緒に始める相手がいないなら、下の「近くの練習会を探す」から都道府県で引いてください。
本記事は各資料の2026年8月22日時点の記述に基づく情報提供です。医学的な判断は医師にご相談ください。
