「シュノーケリングって、何を着ていけばいいんですか」

水着だけで足りるのか、ラッシュガードが要るのか、ウェットスーツまで必要なのか。調べると「季節に合わせて」と書いてあるページが多く、その季節が何を指すのかは書かれていません。

この記事は、これから初めて海に入る方に向けて書きました。答えから言います。決めているのは気温ではありません。水温と、水に入っている時間です。 ここを取り違えると、真夏に震えることになります。

持ち帰りは3つです。

  • 行き先の水温を先に調べてください。 20℃が、保温するものが要るかどうかの境目です
  • 上半身を覆うものを、必ず1枚入れてください。 ラッシュガードは保温着ではなく、日焼けと擦れを防ぐものです
  • 浮いて見るだけなら、ライフジャケットを着けてください。 亡くなった方の87%が着けていませんでした

なぜ気温ではなく水温なのか

国土交通省海事局のサイトに載っている『ドクター山見のダイビング医学』に、こうあります。水は空気より熱を約25倍伝えやすく、体の熱を2〜4倍早く奪うため、頭まで浸かるダイビングはスポーツの中でもとくに体温を失いやすい、という記述です。

正確に読んでください。25倍と2〜4倍は、別のものを指しています。 25倍は熱の伝わりやすさで、2〜4倍が実際に体温が下がる速さです。「水は空気の25倍速く体温を奪う」と書く記事を見かけますが、この資料はそう言っていません。

体温が下がるとどうなるかも、同じ資料にあります。35℃以下が低体温症で、34℃で筋肉がこわばって震えが止まらなくなり、33℃で震えが止まります。震えが止まるのは、良くなったからではありません。

26℃の水でも、時間は無限ではありません

冷たい水に浸かったとき、どれくらいで意識を失うかを予測した表があります。同じ海事局のサイトに掲載された資料から、水温帯ごとに並べました。

水温別に意識を失うまでの時間を並べた図。0.3〜4.4℃で15〜30分、4.4〜10℃で30〜60分、10〜15.6℃で1〜2時間、15.6〜21.1℃で2〜7時間、21.1〜26.7℃で3〜12時間。いちばん暖かい水温帯でも上限は12時間で止まる。
図: 国土交通省海事局サイト掲載の予測表(ミネソタSeagrant)より BLUE BREATH が作図。遭難して浮いている場合の予測であり、泳いでいる場合の値ではない。

但し書きがあります。この表は、遭難して水に浮いたままでいる場合の予測です。シュノーケリングで泳いでいる状況とは違います。それでも読み取れることが一つあります。日本の夏の海でいちばん暖かい21.1〜26.7℃の帯でも、上限は12時間で止まっています。水は、どれだけ暖かくても体温を奪い続けます。 差は速さだけです。

では、何を着るのか

このサイトでは、水温20℃を「3〜5mmのウェットスーツで無理なく入れる境目」として使っています。海域ごとに何月が20℃を超えるかは素潜りの時期はいつ?データページにあります。

厚みの目安をメーカーの公式で探すと、見つかったのはサーフ用ウェットスーツのO’Neillの英語のFAQだけでした。2mmが約18℃以上、3/2mmが約16〜21℃、4/3mmが約10〜18℃、5/4mmが約13℃未満という区分です(華氏を摂氏に直しています)。

2mm wetsuits are well-suited for water temperatures above 65 degrees and 3/2mm wetsuits are normally used in water temperatures ranging from 60 degrees to 70 degrees. — O’Neill

サーフィン用なので、そのまま持ち込めません。波に乗る人は動き続けていますが、シュノーケリングは水面で止まっている時間が長く、そのぶん冷えます。同じ水温なら、シュノーケリングのほうが厚いものが要ります。 日本のメーカーの水温別の早見表は、公式サイトに見つけられませんでした。

ラッシュガードは、保温着ではありません

ラッシュガードは日焼けと擦れを防ぐもので、保温の役割はほとんどありません。「上に1枚着ているから大丈夫」と思ったまま冷えていく、がいちばん多い取り違えです。

着るもの 主な役割
水着のみ 短時間・高水温・日差しの弱い時間帯だけ
ラッシュガード 日焼け・擦れ・クラゲとの接触を減らす
ウェットスーツ 保温。浮力も増える

浮力が増える点は、素潜りをするなら別の問題になります。ウェットスーツを着ると沈みにくくなるので、潜るには重りが要ります。その話は素潜りで潜れないにまとめました。

水の中でも、日焼けします

環境省の『紫外線環境保健マニュアル2020』は、よくある誤解として「水の中では日焼けをしません」を挙げています。

水はわずかな紫外線しか防いでくれません(水深50cmで地表面の40%)。また、水面の反射は紫外線ばく露量を増加させます。 — 環境省『紫外線環境保健マニュアル2020』

水面の反射率は10〜20%、砂浜も10〜20%です。海では、上からに加えて、下からも横からも届きます。同じマニュアルによると、那覇の7月11〜13時台はUVインデックス(紫外線の強さの指標)が11〜12台で、最高の区分です。沖縄と北海道では年間の紫外線量がおよそ2倍違います。

日焼け止めは、行き先で扱いが変わります。パラオは2020年、ハワイ州は2021年から、サンゴへの影響を理由に特定の成分を含む日焼け止めを法律で禁じています。日本国内に法的な規制はなく、那覇市のページにあるのは「環境に優しい製品の使用を推奨」という呼びかけです。

実務的な注意が一つあります。日焼け止めの付いた指でマスクのレンズの内側に触れると、曇ります。塗ったあとは手を洗ってからマスクを持ってください。仕組みは曇り止めの記事にあります。

着るかどうかで、いちばん差が出るもの

最後に、ライフジャケットを置きます。第十一管区海上保安本部(沖縄)の統計では、過去5年の事故者238人のうちライフジャケット非着用が194人(82%)、死者・行方不明者82人のうち非着用が71人(87%)でした。スノーケリング中と遊泳中を合わせた数字です。

遊泳者に着用を義務づけた法令は、今回確認できませんでした。義務ではありませんが、数字ははっきりしています。

素潜りをするなら、ここで矛盾が起きます。ライフジャケットを着ると潜れません。埋める方法は、見ていてくれる人を水面に置くことです。海で守ることは3つだけで、そのうちの1つがこれです。

この記事で確認できなかったこと

  • 日本のメーカー(GULL・TUSA・mobby’s)の水温別の厚みの早見表
  • 濡れた生地で紫外線の遮蔽が落ちるかどうか(学術的にも公的にも根拠を見つけられず)
  • 遊泳者のライフジャケットの法令上の位置づけ(義務がないことを明記した条文には到達できず)

次の一歩

明日海に行くなら、順番はこうなります。

  1. まず、行き先の水温を調べてください。 気温ではありません。データページに海域ごとの月別の水温があります
  2. 20℃を境に考えてください。 下回るなら保温するものが要ります。上回っていても、1時間以上浮くつもりなら1枚持っていってください
  3. 上半身を覆うものを必ず1枚入れてください。 水中でも日焼けします。背中は自分では塗り直せません
  4. 潜らずに浮いて見るだけなら、ライフジャケットを着けてください。 亡くなった方の87%が着けていませんでした

自分に合う厚みが分からないときは、最初はレンタルで試してください。下の「近くの練習会を探す」から都道府県で拠点を探せます。

本記事は各公的資料および公式サイトの2026年8月21日時点の記述に基づく情報提供です。医学的な助言ではありません。持病がある方は、水に入る前に医師にご相談ください。