「泳げないんですけど、沖縄でシュノーケリングってできますか」

旅行の計画を立てていて、この一文を検索した方は多いと思います。友だちや家族は乗り気なのに、自分だけ泳ぎに自信がありません。申し込んでしまってから「やっぱり無理」と言うのは気が引けますし、かといって船の上で待っているのも寂しいものです。この記事は、旅行先で初めてシュノーケリングをしてみたい、でも泳ぎに自信のない大人の方に向けて書きました。

先に答えを書きます。ツアーに参加する形なら、できます。それも「業者が親切だから」ではありません。沖縄では2026年4月1日から、ガイドがお客にライフジャケットかウェットスーツを着せることが、条例で決まった義務になりました。

持ち帰りは3つです。

  • ツアーなら、泳げなくてもできます。 浮くのはライフジャケットの仕事で、沖縄では業者がそれを着せる義務を負っています
  • 申し込むときに「泳げない」と言ってください。 言えば浮き具を持ったガイドが横につきます。隠すと、業者が負っている「危ない人を入れない義務」の側に回ります
  • 自分たちだけで入るなら、着けて・浮いて見るだけ・人と一緒に。 沖縄で亡くなった人の87%は、着けていませんでした

ここから下は、その根拠です。急ぐ日は、上の3つだけ持って申し込んでください。


浮くのは、あなたではなく装備の仕事です

泳げない方が想像している「シュノーケリング」は、たぶん実際より難しいものです。

シュノーケリングは、水面に浮いて、顔だけ水につけて、海の中を見る遊びです。泳いで進む必要はほとんどありません。ライフジャケットを着けていれば体は沈みませんし、足にフィン(足ひれ)を着ければ、軽く動かすだけで進みます。クロールができるかどうかは、関係がありません。

沖縄の業者の案内を引きます。恩納村のツアー会社は「全員ライフジャケット&ウェットスーツ着用!泳げなくても浮かぶことができます」、青の洞窟のツアー会社は「お客様はライフジャケットを着用していますので絶対に沈んだりしません」と書いています。どちらも、浮くことを客の泳力に頼っていません。

「泳げない」には、顔を水につけるのが怖い、浮いていられない、長く泳げない、の3種類があります。このうちライフジャケットが解決しないのは、最初の1つだけです。顔をつけるのが怖い方は、出発前にお風呂か足のつくプールで、マスクを着けて顔をつけてみてください。それだけで、当日の景色が変わります。装備の話をもう少し詳しく知りたい方は、素潜りは泳げなくてもできる?に書きました。


沖縄では、着せることが業者の義務になりました

ここからが、この記事でいちばん伝えたいことです。

沖縄県には「水難事故の防止及び遊泳者等の安全の確保等に関する条例」があります。この条例が改正され、2026年4月1日から新しい中身で動いています。スノーケリング業者が取らなければならない措置は第23条に並んでいて、その8番目がこれです。

スノーケリング者に救命胴衣等を着用させること。ただし、スノーケルによる呼吸を行うことができない水深における遊泳を伴うスノーケリングであって、救命胴衣等を着用することにより当該スノーケリングが困難になる場合において公安委員会規則で定める措置をとるときは、この限りでない。 — 沖縄県水難事故の防止及び遊泳者等の安全の確保等に関する条例 第23条第1項第8号

「救命胴衣等」とは、県警の改正概要によれば、ライフジャケットまたはウェットスーツのことです。つまり沖縄のツアーでライフジャケットを渡されるのは、業者の善意ではなく、条例が業者に課した義務です。

条例は「浮いて見る」と「潜る」を分けています

ただし書きのほうも読んでください。「シュノーケルで息ができない深さまで潜る」場合は、ライフジャケットを着けていると潜れないので、別の措置に替えてよい、と書いてあります。その措置は2つで、2人1組で互いを見合うこと(条文ではバディシステムと呼んでいます)と、人を支えられる浮き具を近くの水面に置くことです。

これは、泳げない方にとって大事な線です。水面に浮いて見ているかぎり、あなたはライフジャケットを着けたままでいられます。「潜らなくていいんですか」と聞く必要はありません。潜るのは別の遊びで、別の安全策が要る、と条例が言っています。


「泳げない」は、申し込むときに言ってください

泳げないことを隠して申し込む方がいます。気持ちは分かりますが、これは逆効果です。

同じ第23条には、業者が負う別の義務があります。お客の「健康状態、スノーケリング経験、スノーケリング技能その他の事情により安全なスノーケリングができないおそれがあると認められるときは、その者にスノーケリングをさせないこと」。そして、お客の名簿に経験・最後にした日・既往症・当日の健康状態を記録することも義務です。

ツアーの申込画面で健康状態や経験を細かく聞かれるのは、このためです。業者は、知ったうえで安全策を取る義務と、危ないと判断したら入れない義務の両方を負っています。先に「泳げません」と伝えれば、業者は前者を選べます。浮き具を持ったガイドが横につく、小さな子には箱メガネを出す、というのがその中身です。

実際の参加条件も見ておきます。恩納村のツアー会社は「満3歳以上75歳以下の健康な方なら誰でも参加できます」としたうえで、喘息・てんかん・重い心臓の病気がある方と妊娠中の方は参加できない、60歳以上の方は健康チェック票の提出が要る、と書いています。泳げるかどうかは、条件に入っていません。断られる理由があるとすれば、泳力ではなく持病のほうです。


自分たちだけで入るなら、数字を先に見てください

「ツアーは高いから、レンタルで自分たちだけで入ろう」という方もいると思います。禁止ではありません。ただ、条件が変わります。

ツアーではガイドが、着せる義務・入れない義務・通報する義務を負っています。自分たちだけで入ると、その義務を負う人が誰もいなくなります。その状態で何が起きているかを、海上保安庁が数えています。

沖縄でスノーケリング中・遊泳中に事故にあった238人と、うち死者・行方不明者82人について、ライフジャケットを着けていた人の割合を示した帯グラフ。事故者では着けていた人が18%、死者・行方不明者では13%。
図: 第十一管区海上保安本部「マリンレジャーに伴う人身事故防止に向けた令和8年の取組について」の数値から BLUE BREATH が作成。令和3〜7年の5年間、スノーケリング中と遊泳中の合計。

令和3年から7年の5年間に、沖縄でスノーケリング中または遊泳中に事故にあった人は238人。そのうちライフジャケットを着けていなかった人が194人で82%、亡くなった・行方不明になった82人のうちでは71人で**87%**でした。同じ資料は、令和7年の事故者が111人で統計開始以来の最多に並んだこと、令和4年から続けて観光客が事故の7割以上を占めていることも書いています。

泳げない方が自分たちだけで入るなら、守ることは3つです。ライフジャケットを着けること、浮いて見るだけにして潜らないこと、見ていてくれる人と一緒に入ることです。

条例の最低線と、海上保安庁の呼びかけは、少し違います

ひとつ気になる点があります。条例の「救命胴衣等」は、ライフジャケットまたはウェットスーツのどちらでもよい、という書き方です。一方、海上保安庁の呼びかけは「ライフジャケットは必ず着用を」で、ウェットスーツを代わりに挙げていません。

ウェットスーツは体を浮かせますが、顔を上に向けて支える作りにはなっていません。泳ぎに自信のない方が選ぶなら、条例の最低線ではなく、海上保安庁の側に合わせてください。ライフジャケットです。ツアーでウェットスーツだけを渡されたら、ライフジャケットも貸してほしいと言って構いません。

入る場所の選び方

届出のある海水浴場と、そうでない海岸では、置かれているものが違います。同じ2026年4月の改正で、届出のある海水浴場では監視人と水難救助員を置くことが、それまでの努力義務から義務に変わりました。届出のない海岸には、その役を負う人がいません。届け出のある海水浴場の一覧は、都道府県ごとに出どころが違います(沖縄なら県警察が公表しています)。47都道府県の海のデータに載せている731か所は環境省が水質を調べた水浴場で、届出の一覧とは別のものです。きれいな浜と、監視のある浜は別物です。


この記事で確認できなかったこと

  • 泳げる人と泳げない人で事故の率がどう違うか(海保の資料に泳力別の集計は無し。「泳げなくてもできる」は装備と制度から言えること)
  • ウェットスーツだけの人が統計上「非着用」に入るのか
  • 「救命胴衣等」の浮力の基準(条例と施行規則に規格の指定は見つからず)

次の一歩

泳げないからできない、ではありませんでした。浮くのは装備の仕事で、沖縄ではそれを着せるのが業者の義務です。やることは3つです。

  1. ツアーに申し込んで、「泳げません」と書いてください。 断られる理由は泳力ではなく持病のほうです。聞かれたことには正直に答えてください
  2. 出発前に、お風呂か浅いプールで、マスクを着けて顔をつけてみてください。 ライフジャケットが解決しないのは、ここだけです
  3. 自分たちだけで入るなら、着けて・浮いて見るだけ・人と一緒に。 行き先の候補は47都道府県の海のデータで県ごとに見られます

海で守ることは、いつでも3つだけです。ライフジャケットを着けて浮いているあなたは、その3つの内側にいます。