「フリーダイビングのシーズンは6月から11月」とよく言われる。
では、なぜその期間なのか。そしてシーズン外はどうするのか。この2つに数字で答えている日本語の記事が見当たらなかったので、作った。
気象庁が公開している日別海面水温の数値データから、主要な8海域の月平均を直近10年(2016〜2025年)で算出した。
8海域の月別水温
単位は℃。太字は月平均20℃以上=おおむね3mmのウェットスーツで潜れる範囲。
海域名の対応は、駿河湾=井田・大瀬崎、相模湾=伊豆東海岸・初島、千葉南部=館山・伊戸、熊野灘=串本・白浜、三宅島沿岸=御蔵島の近傍、沖縄本島北=恩納・真栄田、沖縄本島南=那覇・慶良間方面。
| 海域 | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 駿河湾・伊豆西 | 17.0 | 16.1 | 16.5 | 17.6 | 19.9 | 22.7 | 26.0 | 28.0 | 27.2 | 24.6 | 22.0 | 18.9 |
| 相模湾・伊豆東 | 16.8 | 15.9 | 16.2 | 17.1 | 19.4 | 22.1 | 25.3 | 27.2 | 26.3 | 23.9 | 21.4 | 18.6 |
| 千葉南部・館山 | 17.6 | 16.6 | 16.8 | 17.4 | 19.5 | 21.9 | 25.0 | 27.0 | 26.6 | 24.7 | 22.2 | 19.5 |
| 熊野灘・串本 | 18.0 | 17.2 | 17.2 | 18.4 | 20.5 | 23.2 | 26.4 | 28.4 | 27.5 | 25.0 | 22.4 | 20.0 |
| 三宅島沿岸 | 19.8 | 18.8 | 19.3 | 20.1 | 22.1 | 24.1 | 26.9 | 28.6 | 28.2 | 26.1 | 24.0 | 21.7 |
| 八丈島沿岸 | 20.2 | 19.4 | 19.3 | 20.2 | 22.2 | 24.1 | 27.1 | 28.7 | 28.5 | 26.5 | 24.2 | 22.1 |
| 沖縄本島 北 | 22.5 | 21.8 | 22.2 | 23.2 | 24.8 | 26.9 | 29.2 | 29.7 | 29.2 | 27.6 | 25.6 | 23.9 |
| 沖縄本島 南 | 23.3 | 22.6 | 22.6 | 23.5 | 25.5 | 27.5 | 29.4 | 29.7 | 29.4 | 28.1 | 26.4 | 24.7 |
読み取れることが3つある。
① 本州の「シーズン」は、6か月しかない
駿河湾・相模湾・千葉県南部は、いずれも20℃以上が6か月(6〜11月)。
これがそのまま「海洋実習は6〜11月」というスクール側の設定と一致する。シーズンという言葉の正体は、これだ。 神秘的な理由はなく、単に水温がそこで切れている。
② 伊豆諸島は、伊豆半島より3〜4℃暖かい
ここが最大の発見だった。
三宅島沿岸は20℃以上が年9か月、八丈島沿岸は年10か月。 2月の最低でも、八丈島19.4℃・三宅島18.8℃で、同時期の伊豆半島(15.9〜16.1℃)より約3℃高い。
黒潮の影響を直接受ける島嶼部だからだ。「冬に日本の海で潜りたい」なら、南へ行くより先に、沖へ出るという選択肢がある。
③ 沖縄だけが、12か月すべて20℃を超える
沖縄本島北・南とも、全12か月が月平均20℃以上。最も冷える2月でも21.8〜22.6℃ある。
年間を通して海洋トレーニングを継続できる場所は、日本ではここだけというのが、データ上の結論になる。
地域別に見る
伊豆半島(駿河湾・相模湾)
首都圏から最も近い海洋実習地。多くのスクールが西伊豆の井田や大瀬崎で実習を組む。
- ベストは8〜10月(24.6〜28.0℃)。10月でも24.6℃あり、人が減るぶん条件は良い
- 12〜5月は5mm以上。2月の16.1℃は、3mmでは長く水に浮いていられない
- アクセスの良さが最大の価値。日帰りが成立する数少ない海洋実習地
伊豆諸島(三宅島・八丈島・御蔵島)
黒潮の島。水温が高く、透明度でも知られる。
- 20℃以上が年9〜10か月。冬の選択肢として、本州よりはるかに現実的
- ただしアクセスが最大の障壁。御蔵島の場合、船の着岸率は通年59.0%しかない
- 御蔵島でドルフィンスイムを狙うなら、水温の観点では5月以降(22.1℃)が快適。3月・4月は19〜20℃で、シーズン初めは相応の装備が要る
千葉県南部(館山・伊戸)
首都圏から近い。水温は伊豆とほぼ同じ(6〜11月が20℃以上)。
館山周辺は魚の群れで知られるが、フリーダイビングでの利用条件はポイントごとに異なるため、事前確認が要る。
紀伊半島(串本・白浜/熊野灘)
20℃以上が年7か月(5〜12月)と、伊豆より1か月長い。12月でもちょうど20.0℃。
関西圏からのアクセスが良く、シーズンが前後に少し伸びるのが利点になる。
沖縄(恩納・真栄田/慶良間・宮古・石垣)
- 通年20℃以上。冬のトレーニング拠点として、国内で唯一の選択肢
- 最も暖かいのは7〜9月の29℃台。ただしこの時期は台風の影響を受ける
- 狙い目は10〜11月(26〜28℃)と4〜5月(23〜25℃)。台風と混雑を避けつつ、水温は十分ある
冬をどうするか — 3つの選択肢
12〜5月、本州の海は16〜19℃になる。ここでの選択肢は3つしかない。
- 沖縄へ飛ぶ … 通年22℃以上。移動費はかかるが、海洋トレーニングを止めなくて済む
- 伊豆諸島へ渡る … 八丈島なら冬でも19〜20℃。ただし船と天候のリスクを負う
- プールに切り替える … 首都圏の深いプール事情はこちら。屋内で水温30℃の施設もある
多くの人にとって現実的なのは3番だ。冬の実体は「プールで技術を作り、夏に海で使う」というサイクルになる。これを前提に年間計画を立てると、無理がない。
装備の目安
PADIが示す一般的な対応はこうだ。
- 3mm … 水温 26〜21℃
- 5mm … 21〜15℃
- 7mm … 15〜10℃
上の表を当てはめると、伊豆は6〜11月が3mm・12〜5月が5mm、沖縄は通年3mm(真夏はさらに薄手も可)、伊豆諸島は5mmを1着持てばほぼ通年カバーできる、という結論になる。
器材の選び方の詳細はこちら。
この記事で確認できなかったこと
数字を出したぶん、限界を正確に書く。
- 🔴 これは海面水温であって、水中の水温ではない。 夏場は水温躍層により、水深20〜30mで海面より大幅に低いことがある。深度を狙う潜水では厚めを見ること。深度別の実測データは確認できなかった
- 🔴 海域の代表値であって、ポイントの水温ではない。 「駿河湾」は湾全体の平均で、井田や大瀬崎の実測ではない。湾内の場所や地形、当日の潮によって数℃違いうる
- 各ポイントのフリーダイビング利用可否・ルール … 本記事は水温のみを扱っており、各ダイビングポイントで素潜りが認められているか、地元の漁協や協議会のルールがどうなっているかは確認していない。潜る前に必ず現地のショップまたは管理団体へ確認すること
- 透明度・流れ・生物の季節性 … 水温以外の条件は今回の集計に含まれていない
- 宮古島・石垣島・久米島の個別データ … 海域番号は存在する(705〜709)が、今回は沖縄本島の2海域のみを集計した
- 台風の影響日数 … 沖縄の「狙い目」は水温と一般的な台風時期からの推定で、実測の欠航・中止日数を集計したものではない
水温データは気象庁の公開する日別海面水温をもとに、2016〜2025年の月平均として算出しました。潜水の可否は水温以外の条件にも左右されます。安全に関わる判断は必ず現地のインストラクターに従ってください。
