「海から上がると、いつも目が痛くて真っ赤になるんです。これって普通ですか」
シュノーケリングや素潜りを始めたばかりの方から、よく聞く悩みです。水中は楽しかったのに、上がったあと何時間も目がしょぼしょぼします。鏡を見たら白目に赤い点があります。コンタクトを着けたまま入ったけれど大丈夫だったのか、気になっています。この記事は、海に入ったあとの目の不調に心当たりがある、始めて間もない方に向けて書きました。
先に答えを書きます。原因は3つに分かれます。海水がしみた、マスクが顔に吸い付いた、コンタクトを着けたまま入った、の3つです。どれに当たるかは症状で見分けられて、最初の2つはマスクの使い方で消えます。
持ち帰りは3つです。
- しみて赤いだけなら、海水です。 海水は涙の4倍しょっぱく、目に触れると水分が引かれます。マスクに水が入らないようにするのが対処です
- 目の周りが圧されて痛い・白目に血がにじむなら、マスクの吸い付きです。 潜るとき、耳抜きのたびに鼻から少し息を出してマスクに空気を足してください
- コンタクトは外してください。 海水には重い感染症を起こす菌がいて、メーカーも眼科医会も外すよう言っています。目が悪い方は度付きのマスクがあります
ここから下は、その根拠です。次に海に入る前に、上の3つだけ持っていってください。
1つ目、海水がしみている
いちばん多くて、いちばん軽い原因です。マスクの中に水が入って、そのまま目を開けて泳いでいると起きます。
理由は塩分の濃さです。海水の塩分濃度はおよそ35,000ppm(100万分の35,000)、涙はおよそ9,000ppmで、海水は涙の4倍ほどしょっぱい計算になります。濃い液体に触れると、目の表面からは水分が引かれます。これが、しみる・乾く・赤くなる、の正体です。逆にプールの水は涙より薄いので、向きが逆に水が入ってきます。どちらも涙との濃度差が刺激になっていて、対処は同じです。目に水を触れさせないこと、つまりマスクの中に水を入れないことです。
マスクに水が入る理由は、たいてい2つです
水が入るのは、マスクの性能より、顔に合っていないことと、髪の毛が挟まっていることがほとんどです。合っているかどうかは、ストラップを使わずにマスクを顔に当てて、鼻から軽く息を吸ってみて、手を離しても落ちなければ合格です。これはDANの解説にも書かれている確かめ方で、買う前に店でできます。前髪や後れ毛がシリコンの縁に1本でも挟まると、そこから水が入ります。マスクの選び方と合わせ方は、買い物と持ち物の記事に書きました。
しみてしまったあとは、真水で目を洗うより、自然に涙が出るのを待つほうが目にやさしいです。こすらないでください。時間がたてば治まります。治まらなければ、次の原因を疑ってください。
2つ目、マスクが顔に吸い付いている
潜ったときに目の周りが圧される、上がってきたら目の周りが腫れている、白目に血がにじんでいる、という症状です。これはマスクスクイーズ(マスクが顔に吸い付いて、目の周りの組織が圧される状態)です。素潜りで初めて「深さ」を経験した方が、最初にぶつかる目のトラブルです。
仕組みは耳と同じです。潜るほど周りの水圧が上がり、マスクの中の空気は縮みます。耳は耳抜きで圧を合わせますが、マスクの中の空気は何もしないと縮んだままで、マスクが顔に吸い付きます。そのまま潜り続けると、吸い付いた圧で目の周りの細い血管が切れます。DANの解説では、症状として目の周りの腫れ、まぶたの赤や紫の点、白目の出血が挙げられています。
予防は、鼻から息を「少し漏らす」だけです
DANが書いている予防法は1つで、潜降中、耳抜きをするたびに鼻から少量の空気を出して、マスクの中に空気を足すことです。原文はこうです。
The solution to preventing mask squeeze is to remember to keep your nasal passageways open during descent by blowing small amounts of air through your nose every time you equalize your ears. — Divers Alert Network, Mask Squeeze (AKA Facial Barotrauma)
やり方として覚えやすいのは、鼻をつまんで耳抜きをしたあと、つまんだ指を少しゆるめて、鼻から「ふっ」と息を漏らす、です。耳抜きとセットにすれば、忘れません。耳抜きそのもののやり方は、3mで耳が痛いと耳抜きの練習法に書いてあります。
なお、スクーバ用の大きなマスクほど中の空気が多く、足す空気も多く要ります。素潜り用のマスクが小さく作られているのは、見た目ではなく、この空気の量を減らすためです。
白目の血は、2週間ほどで消えます
すでに白目に血がにじんでいる方へ。DANの解説では、治るまでに2週間かそれ以上かかることがあり、見た目は治る前に一度悪くなる、とされています。体が血を吸収する過程で、にじみが重力で下に広がるためです。医学の解説書(StatPearls)にも、結膜下出血などの軽い眼の損傷は短期間で自然に治る、とあります。
ただし、見え方の異常があるときは別です。ぼやける、二重に見える、視野が欠ける、といった症状です。DANはこれらを「より深刻な損傷の印で、すぐに医師か眼科医の診察が要る」としています。赤いだけなら待ってよく、見え方が変なら待たない、と覚えてください。
3つ目、コンタクトを着けたまま入った
最後は、目ではなくレンズの話です。コンタクトを着けたままマスクを着ける人は多く、水が入らなければ平気、と思われがちです。ただ、ここはメーカーと眼科医会の言っていることを、そのまま伝えます。
アキュビューの公式解説は、水泳や入浴でコンタクトを外すべき理由を3つ挙げています。水の中には、重い角膜の感染症を起こす緑膿菌やアカントアメーバなどの菌がいること。レンズを着けていると、涙が目を洗う自浄作用が弱まること。ソフトレンズは水に触れると、水分のバランスが変わって変形する可能性があること。そのうえで、度付きゴーグルの利用を勧めています。メニコンのコラムも「コンタクトレンズをつけたままプールや海で泳ぐのはNG」と題しています。
日本眼科医会は、コンタクトの合併症の中で最も重くなるのがアカントアメーバ感染症だとしています。水道水などを介して入り、治療しても薬が効きにくいことが多い、とあります。海水はプールや水道水と別物ですが、「水に触れたレンズを目に入れたままにする」という条件は同じです。
目が悪い方は、度付きのマスクがあります
コンタクトを外すと見えない、という方のために、度付きレンズのマスクがあります。TUSAの度付き交換レンズは、近視用で−1.0から−8.0まで0.5度刻み、左右別々に選べて、価格はオープンプライスで片眼ごとです。他のメーカーにも同じ仕組みの製品があります。度数は眼鏡の処方箋の数字を使ってください。水中ではものが大きく近く見えるので、少し弱めでも足りることが多いですが、そこは店で相談してください。
コンタクトと眼鏡で度数が違うのは、レンズと目の距離が違うからです。マスクのレンズは眼鏡と同じ位置にあるので、眼鏡の度数で合わせます。
この記事で確認できなかったこと
- 海水が目にしみる仕組みについての、日本の眼科学会や査読論文の記述。 塩分濃度の数値は検眼医が監修した解説サイトから引きました。浸透圧の説明としては標準的なものですが、学会の公式文書では確認できていません
- マスクスクイーズが何mから起きるか。 DANの解説に具体的な深さは書かれていません。水圧の変化がいちばん大きいのは最初の10mなので、浅いうちから空気を足す習慣をつけてください
- プールの塩素と海水で、目への刺激の仕組みがどう違うか。 両方を並べて説明した権威ある資料は見つけられませんでした
- 日本の海上保安庁や消費者庁に、マスクスクイーズや目のトラブルの統計・注意喚起があるか。 見つかりませんでした
次の一歩
目が痛いのは、海のせいでも、あなたの目が弱いせいでもありませんでした。3つのうちどれかで、どれも対処があります。やることは3つです。
- 次に潜るとき、耳抜きのたびに鼻から少し息を漏らしてください。 吸い付きは、これだけで消えます
- マスクが顔に合っているか、ストラップ無しで吸い付けて確かめてください。 落ちるなら、水は入り続けます
- コンタクトは外して、見えないなら度付きのマスクを検討してください。 眼鏡の処方箋の数字を持って店に行ってください
白目の赤みは2週間ほどで消えます。見え方がおかしいときだけは、海ではなく眼科に行ってください。海で守ることは、いつでも3つだけです。痛んだらやめる、は目にも当てはまります。
