「5mまでは行けるのに、そこから耳が痛くて進めません」

フリーダイビングを始めた人が最初にぶつかる壁は、たいてい息こらえではありません。耳です。これは肺活量の問題でも根性の問題でもなく、技術の問題です。しかも方法を変えると解けることが多いです。

この記事は、耳のせいで深さが止まっている方に向けて書きました。答えから言います。バルサルバ(鼻をつまんで肺から息を吹く方法)をやめて、フレンツェル(口と喉に溜めた空気を舌で押し出す方法)に変えてください。 肺の空気は潜るほど縮むので、肺から吹く方法は構造的に深さの上限を持っています。

今日から変えることは3つです。

  1. 鼻をつまんで、「K」の音を出す要領で口の中の空気を押してください。 肺から吹き上げないことがフレンツェルです
  2. 水面で1回、潜り始めの数mは1mごとに抜いてください。 深くなってからでは遅いです
  3. 痛んだら、その潜水はやめて浮上してください。 我慢して得るものは何もありません

バルサルバをやめる理由

バルサルバは、鼻をつまんで肺から空気を押し上げる方法です。スキューバでは長く標準とされてきました。タンクがあるので、肺の空気は無尽蔵にあるからです。

フリーダイビングでは、肺の空気は有限であるどころか、深度とともに縮んでいきます。深くなるほど、耳へ送り出せる空気が減ります。水深30m前後では、耳や副鼻腔の圧を合わせるだけの空気が肺に残らない、と説明されます。バルサルバは、構造的に深度の上限を持つ方法です。

フレンツェルは舌をピストンにします

フレンツェル法は、すでに口腔と喉にある空気を舌で押し出します。肺の空気を一切使いません。DANの説明は、鼻を閉じ、重いものを持ち上げようとするときのように喉の奥を閉じ、「K」の音を出す、です。この「K」の感覚が要点で、舌の後ろが上に持ち上がり、口の中の空気が耳管(鼻の奥と中耳をつなぐ細い管)へ押し出されます。

実測データ:フレンツェルは本当に効くのか

Wolberらは、経験のあるアプネアダイバー11名(計22耳)を減圧・加圧チャンバーに入れ、鼓膜のインピーダンス測定によって耳管の開放を直接計測しました。フレンツェル法の耳管開放圧は22.7±33.7mbar、開放時間は2.0±1.6秒でした。バルサルバ法のほうが開放圧は高く、開放時間は長かった一方で、結論はこうです。

フレンツェル法は、耳管の開放に関してバルサルバ法と少なくとも同等に有効であることが示された。 — Wolber ら(2022・Eur Arch Otorhinolaryngol)

「バルサルバのほうが強く開く」のは事実で、「フレンツェルでも十分開く」のも事実です。 そのうえでフレンツェルは肺の空気を使いません。どちらを選ぶべきかは、これで決まります。ただし被験者は11名と少なく、すでに経験のあるダイバーです。初心者がフレンツェルを習得するとどれだけ深く行けるようになるかを示した研究ではありません。

DANが挙げる6つの方法

耳抜きはひとつではありません。DANが示す手法を並べます。軟口蓋(なんこうがい)は、口の奥の上側にある柔らかい部分です。

手法 やり方
バルサルバ 鼻をつまみ、鼻から息を吹く
パッシブ 通常は浮上時に自然に起こる
随意耳管開放 軟口蓋と喉の筋肉を緊張させ、あくびを始めるように顎を前下方へ押し出す
トインビー 鼻をつまんだまま、つばを飲み込む
フレンツェル 鼻を閉じ、重い物を持ち上げるように喉の奥を閉じ、「K」の音を出す
ロウリー 鼻を閉じて、吹くと同時に飲み込む
エドモンズ 軟口蓋と喉を緊張させ顎を前下方に出しながら、バルサルバを行う

初心者がまず身につけるべきはフレンツェル、というのが多くの指導現場の合意です。そのうえで、抜けにくい日に随意耳管開放やトインビーを併用します。

潜る前にやること

陸上で練習する

フレンツェルは水中で覚えるより、陸で覚えるほうが速いです。鼻をつまんで「K」の音を出し、耳がポンと鳴るか確認します。肺から息を吹いていないことを確かめるには、口を閉じたまま、胸が動かない状態でできるかを見ます。陸でできることとできないことは耳抜きの練習に書きました。

潜り始めた瞬間から抜く

圧力は水深10mごとに1気圧増えますが、体積の変化が最も大きいのは水面から10mまでです。

水深ごとの気体の体積を水面を100%として示した棒グラフ。10mで50%、20mで33%、30mで25%、40mで20%。最初の10mだけで50ポイント縮むのに対し、30mから40mでは5ポイントしか変わらない。
図: ボイルの法則(体積は絶対圧に反比例)からの計算値であり実測ではない。耳抜きが最も忙しいのは深部ではなく水面直下だ、という本文の主張はこの形から出ている。

最初の数メートルこそ、最もこまめに抜く必要があります。「痛くなってから抜く」では遅いです。痛みが出る前に、先回りして抜き続けます。潜降姿勢で頭を強く下げると耳管が通りにくくなるので、抜けないときは首の角度を変える、抜けないほうの耳を上に向ける、といった対処をします。片耳だけ抜けない場合は別の記事があります。

痛みを我慢しない

これは技術論ではなく、安全の話です。圧を合わせないまま潜降すると、圧力差で鼓膜が引き伸ばされ、損傷します。水中での鼓膜破裂は、冷たい水が中耳に入ることで激しい回転性めまいを起こします。水中で上下が分からなくなる状態が、どれだけ危険かは説明するまでもありません。抜けなければ、その潜水はやめてください。 深度は次の機会に取り返せます。鼓膜は数か月かかります。

この記事で確認できなかったこと

  • マウスフィル(深度40m超で使う上級技法)の有効性や安全性を扱った一次資料(独学で試すべき技法ではありません)
  • 初心者がフレンツェルを習得する期間(「◯週間で身につく」の根拠は未確認)
  • バルサルバが効かなくなる正確な深度(「30m前後」は指導団体系の解説に基づく)

次の一歩

読んで終わりにせず、次の海までに1つだけ変えてください。

  1. 今日、陸の上で「K」の音を出してみてください。 鼻をつまみ、胸を動かさずに舌の付け根だけで押す。耳が動けば、それがフレンツェルの感覚です
  2. 次に潜るときは、水面で1回抜いてから頭を下げてください。 潜り始めてからでは、最初の数メートルに間に合いません
  3. 浅いところで止まっている段階なら、3mで耳が痛いを先に読んでください。 この記事は、その次に読む技術の話です

鼻づまりのある日は、潜るのをやめてください。海で守ることは3つだけです。耳が素直に抜けるようになると、海はいちばん静かで面白い場所になります。

本記事は査読論文およびDAN・指導団体の公開資料に基づく情報提供であり、医学的助言ではありません。耳抜きの技法は必ず有資格のインストラクターの指導下で習得してください。耳の症状が続く場合は耳鼻咽喉科を受診してください。