「みんな潜れているのに、自分は3mで痛い」
これは、わたしが最初に思ったことでもあります。
一緒に練習している人は10m、15mと降りていくのに、自分は3mか4mで耳がキーンとして止まってしまいます。息はまだ余っているのに、それ以上進めません。才能の問題なのか、体の作りが違うのか、と考えました。この記事は、浅いところで耳が痛くなって止まってしまう方に向けて書きました。
先に結論を書きます。3mで痛いのは、珍しいことではありません。 そして、たいていは体の作りの問題ではなく、抜き方とタイミングの問題です。
ただし、この記事は医学的な助言ではありません。痛みが出たときの判断や、受診すべきかどうかの線引きは、ここでは示しません。書けるのは、なぜ浅いところで痛くなるのかという仕組みと、そのときに何をやめるべきか、の2つだけです。
持ち帰りは3つです。
- 痛くなる前に、水面から抜き始める。 3mで止まる原因は、たいてい抜き方より順番のほうにあります
- 抜けなければ、その潜水はやめる。 深度は次の機会に取り返せますが、鼓膜は数か月かかります
- 深さを目的にしない。 3mでも、水面から見える景色とはまったく違います
ここから下は、その根拠です。急ぐ日は、上の3つだけ持って海に行ってください。
浅いところほど、変化は急です
耳が痛くなるのは、水圧で中耳の中の気体が縮み、鼓膜が内側に引かれるからです。ここまでは知られている話だと思います。
問題は、その変化が深いところより浅いところで急だということです。
水面での圧力は1気圧です。水深10mでちょうど2気圧になります。気体の体積は圧力に反比例するので、水面から10mまで降りるあいだに、体積は半分になります。
そのあとを見てみます。
| 深度 | 圧力 | 気体の体積(水面を1として) |
|---|---|---|
| 0m | 1気圧 | 1 |
| 10m | 2気圧 | 1/2 |
| 20m | 3気圧 | 1/3 |
| 30m | 4気圧 | 1/4 |
10mから20mまでの10mで減るのは、1/2から1/3への差です。20mから30mでは1/3から1/4です。最初の10mでの変化が、そのあとのどの10mよりも大きいことが分かります。
さらに細かく見ると、水面から3mまででも、体積はすでに約77%まで縮んでいます。数字の上でも、最初の数メートルは何も起きていない区間ではありません。
つまり、3mで耳が音を上げるのは順当なことです。10m潜れている人が、この区間で何も感じていないわけではありません。そこをていねいに抜いているだけです。
痛くなってから抜くのでは、遅いです
ここが、わたしが最初に間違えていたところです。
痛みは、圧の差がついてしまった結果として出ます。ですので「痛くなったら抜く」という順番だと、常に手遅れの状態から回復させようとしていることになります。抜けにくいのも当然です。
正しい順番は逆で、痛くなる前に、先回りして抜き続けることになります。
- 水面に浮いているあいだに、一度抜いておきます
- 潜り始めた瞬間から抜き始めます
- 深く行くほど間隔を空けるのではなく、浅いところでこそこまめに抜きます
前の節で見たとおり、変化がいちばん急なのは最初の数メートルです。そこでの頻度が足りていないと、3mで止まります。
原因を切り分ける
3mで痛いといっても、原因はひとつではありません。よくあるものを、切り分けやすい順に並べます。
① タイミングが遅い
いちばん多いのがこれだと思います。前の節のとおりです。潜り始めてから抜き始めるのでは間に合いません。水面から抜き始めてください。
② 方法が合っていない
鼻をつまんで肺から息を吹き込む方法(バルサルバ。スクーバでもおなじみの、いちばん一般的なやり方)は、深くなるほど効きにくくなります。肺の空気を使う方法なので、その肺自体が水圧で縮んでいくからです。
フリーダイビングでフレンツェル法(口と喉に溜めた空気を舌でピストンのように押し出すやり方)が使われるのは、この理由からです。口と喉にある空気を舌で押し出す方法で、肺の空気を使いません。仕組みと練習の手順は耳抜きができない理由と、フレンツェル法に書きました。
ただし、3m程度の深さで痛いのであれば、原因は方法よりタイミングであることのほうが多いと思います。
③ 姿勢
頭を強く下げた姿勢だと、耳管(鼻の奥と中耳をつなぐ細い管。ここが開かないと耳の中の圧が変えられない)が通りにくくなります。抜けないときは首の角度を変えてみてください。片側だけ抜けない場合は、抜けないほうの耳を上に向ける、という対処が講習で教えられています。
④ その日の体調
鼻づまり、風邪、花粉症の症状があるときは、どの方法でも抜けにくくなります。前回は抜けたのに今日は抜けない、という場合、技術ではなく体調のことがあります。
その日は潜らない、というのも選択肢です。気管や耳の状態が悪い日に無理をして得られるものは、ほとんどありません。
痛みが出たら、その潜水はやめてください
ここだけは、はっきり書きます。
抜けないまま押し込むと、鼓膜に圧の差がかかったままになります。強い痛み、聞こえのこもり、重い場合は鼓膜の損傷につながります。
そして水中で鼓膜が破れると、冷たい水が中耳に入り、激しい回転性のめまいが起きます。水中で上下が分からなくなる状態が、どれだけ危険かは説明するまでもないと思います。
判断は単純です。抜けなければ、その潜水はやめます。
深度は次の機会に取り返せます。鼓膜は数か月かかります。交換条件として、まったく釣り合っていません。
潜ったあとに痛み・聞こえのこもり・耳鳴り・めまいが残る場合は、耳鼻咽喉科を受診してください。どのくらいで受診すべきかという線引きは、この記事では示しません。医学的な判断であり、わたしにその資格がないからです。
それでも3mで止まるとき
タイミングを直して、方法を変えて、体調のいい日を選んでも、まだ3mで止まることはあります。
そのときに考えてほしいのは、深さを目的にしなくていいということです。
海で魚を見るのに10mは要りません。3mでも、水面から見える景色とはまったく違います。そして耳抜きは、続けているうちに通るようになることが多い技術です。今日抜けないことと、来月抜けないことは別です。
もうひとつあります。ここまで読んで「自分のやり方が間違っているだけかもしれない」と思ったなら、一度きちんと習うのが最短です。耳抜きは、水中で自己流に試すのがいちばん危ない部類の技術です。指導者に見てもらえば、陸上の練習だけで直ることもあります。
この記事で確認できなかったこと
- 「3mで痛い」人の割合 … 初心者のうちどのくらいがこの段階で止まるのかを示す統計は見つけられませんでした。本文の「珍しくない」は、指導現場で語られる内容と筆者自身の経験に基づく記述です
- 片側だけ抜けない現象の原因の内訳 … 頻度や原因の分類を示す資料を確認できませんでした
- 受診の目安 … 医学的な判断にあたるため、この記事では扱っていません。症状が残る場合は耳鼻咽喉科へご相談ください
- 耳抜きが習得できるまでの期間 … 「◯週間で身につく」という一般的な数値の根拠を確認できませんでした
次の一歩
3mで止まるのは、才能でも体の作りでもありません。順番はこうです。
- 今日、陸の上でフレンツェルを試してみてください。 鼻をつまんで、肺から息を吹き込まずに、舌の付け根だけで「クッ」と押す。耳が動けば、それが正解の感覚です
- 次に潜るときは、痛くなる前に抜いてください。 痛くなってからでは遅く、そこから抜こうとしても入りません。潜り始める前に1回、水面で抜いておく
- 1〜2回の講習を受けてください。 耳抜きは文章より、目の前で見てもらったほうが早く解けます。下の「近くの練習会を探す」から、自分の都道府県で探せます
海で守ることは安全の約束(3つ)の3つだけです。それさえ持っていれば、3mの海はもう十分に面白い場所です。
本記事は耳が痛くなる仕組みの説明であり、医学的助言ではありません。診断・治療については医療機関にご相談ください。耳抜きの技法は、必ず有資格のインストラクターの指導下で習得してください。
