「潜った後、少し血の混じった痰が出ました。これはスクイーズでしょうか」

この記事は、潜水後に血の混じった痰や息切れが出た方に向けて書いています。フリーダイビングの肺スクイーズ(水圧で肺が圧縮されて起こる障害)について、分かっていることをまとめました。

答えから言います。肺スクイーズは、肺が水圧で圧縮されて胸の中が陰圧になり、肺や気道の血管からわずかに出血や浮腫が起きる状態です。 「水深何mから起きる」という一律の線はありません。

持ち帰りは3つです。

  1. 理論上の限界(水深35〜45m)は、血液シフトという体の反応で簡単に破られます。 実際に水深200mを超えて潜る選手がいます。
  2. DANの調査では、経験者の96.2%が生涯に1回以上スクイーズを経験しています。 平均発生深度は43mで、自己ベストより浅い深度で起きることが多いです。
  3. 血の混じった痰・咳・息切れが出たら、その日は潜らず受診してください。 再開までの日数に、医学的な統一基準はありません。

なぜ「何mから」の線が引けないのか

水深が深くなるほど、水圧は肺を圧縮します。理論上は、肺が最小サイズ(残気量)に達する水深35〜45mが限界とされていました。ですが実際のフリーダイビングの記録は、水深200mを超えています。

体には「血液シフト」という反応があります。血液を胸腔に集めて、肺が潰れきるのを防ぐしくみです。この反応で理論上の限界は破られます。だから「何mから危険」という一律の線は引けません。

Alert Diver Europe(DAN Europeの専門情報サイト)は、反復潜水で休息が短いと水深4mでもスクイーズが報告されていると説明しています。深い潜水だけの問題ではありません。

正式には「圧縮による微小出血・浮腫」です

肺スクイーズは、正式には下降時肺気圧外傷(barotrauma of descent)と呼ばれます。水圧で肺が圧縮され、胸の中が周囲より低い圧力(陰圧)になることで、肺や気道の血管からにじみ出血や浮腫が起きる状態です。近年はFIPS(フリーダイビング誘発性肺症候群)という呼び方に統合する提案も出ています。

数値で見るスクイーズ

DANが132人のフリーダイバーを対象に行った調査と、Alert Diver Europeの解説から、主な数値をまとめました。

項目 内容 出典
理論上の限界 水深35〜45m(肺が残気量に達する深さ) Alert Diver Europe
実際の到達記録 水深200mを超える Alert Diver Europe
経験者の割合 96.2%(132人中127人) DAN調査
平均発生深度 43m(自己ベストより浅いことが多い) DAN調査
反復潜水での最浅報告 4m(休息が短い場合) Alert Diver Europe
主な症状(103件中) 咳84・痰75・疲労59・血の混じった痰18 DAN調査
再開までの日数(中央値) 10日(同日〜4年の幅) DAN調査
浅い素潜り(水深10m以内)の発生率 確認できず
肺スクイーズの症状内訳(103件中)。咳84件・痰75件・疲労59件・血の混じった痰18件。
図: DANの疫学調査(Yu et al.)からBLUE BREATHが分類(2026年8月23日時点)。

「確認できず」は、水深10m以内の発生率データが今回の調査範囲で見つからなかったという意味です。調査対象はいずれも経験のあるフリーダイバーの深い潜水です。

重さは3段階に分けられる

AIDA(国際フリーダイビング協会)は、スクイーズの重さを3段階に分類しています。

  • 軽度: 血の混じった痰。酸素飽和度の低下は10分以内で、1時間以内に症状が消える。
  • 中等度: 軽度に加え頻脈・呼吸困難があり、症状は24時間以内に消える。酸素投与が必須。
  • 重度: 大量の喀血があり、症状が24時間を超えて続く。

どの段階でも「その日は潜らない」が共通です

軽度に見えても、血の混じった痰が出た時点でその日の潜水は中止してください。症状が1時間以内に消えない、または呼吸が苦しいなら、速やかに受診してください。

浅い深度で繰り返すなら、何が原因なのか

水深40mより浅い深度で繰り返しスクイーズが起きる場合、原因は水深そのものではなく技術にあるという指摘があります。この指摘は、2024年に公開されたワークショップの収録に載っています。専門家のリンドホルム氏は、次のように述べています。

If you squeeze above 40 m, it’s bad technique… — Lindholm, in 2024 Proceedings of Barotrauma and SIPE in Freediving Workshop

同じ収録の別の章によれば、胸腔内の圧力が陽圧から陰圧に転じる深さは、通常の潜水開始で水深27mです。事前にパッキング(肺に空気を詰め込む技術)を行うと、その深さは水深40mまで変わります。

鼻血や急浮上の症状と混同しないでください

似た症状でも、原因が違うものがあります。浮上後に鼻から出る血は副鼻腔のスクイーズで、肺スクイーズとは別の障害です。詳しくは素潜りで鼻血が出るのはなぜ?にまとめています。

息切れやめまいの原因が浮上の速さにあるなら素潜りの急浮上は大丈夫?を確認してください。繰り返しの潜水でふらつきや手の力が入らない症状が出るなら素潜りでも減圧症になる?を確認してください。潜る前の共通の注意は安全の原則にまとめています。

この記事で確認できなかったこと

  • 大会でのスクイーズ発生率(選手を対象にした別調査の数値)
  • 水深10m以内、一般的なシュノーケリング・素潜りでの発生率
  • 日本語の一次資料(DAN JAPANのFAQはスクーバ上昇時の話で、対象が異なります)

次の一歩

  1. 潜水後に血の混じった痰・咳・息切れが出たら、その日は潜るのをやめてください。 軽度に見えても、まず休んでください。
  2. 症状が1時間以内に消えない、または呼吸が苦しいなら、すぐに医療機関を受診してください。 自己判断で潜水を再開しないでください。
  3. 潜水を再開する時期は、ダイビング専門医に相談してください。 再開までの日数に、統一された医学的基準はありません。

本記事は2026年8月23日時点で公開されている学術論文・専門機関の資料に基づく情報提供であり、医療の助言ではありません。個別の症状については、医療機関または潜水医学に詳しい医師にご相談ください。