「陸のプールでは1分近く止められるのに、海に入るとぜんぜんもちません。同じ息止めなのに、なぜこんなに違うんでしょう」

この記事は、陸で息止めの練習をしている方、または海で急に息が続かなくなって戸惑った方に向けて書いています。

答えから言います。陸でできた秒数が、水中でそのまま出ないのは普通です。 理由は一つではなく、動くこと・水温・緊張が重なって、酸素を陸より早く使うためです。

持ち帰りは3つです。

  1. 動くと、息止め中の酸素消費が増えます。 じっとしているときより、泳ぐ・キックするだけで酸素を早く使います(DAN)
  2. 激しく動いた直後は、特に大きく縮みます。 高強度の運動の直後は、安静時にできた息止めが最大75%短くなったという研究があります
  3. 冷たい水に顔をつけると、それだけで最大値が下がります。 10℃以下では、酸素を節約する体の反応より、冷たさへの反応が勝ります

なぜ、動くだけで息が続かなくなるんですか

DAN(ダイバーズ・アラート・ネットワーク、潜水事故の調査や啓発を行う国際団体)は、体を動かすと息止め中の酸素消費が増え、想定する「安全な」息止め時間は簡単に過大評価される、と説明しています。じっと座った記録は、酸素を最も使わない条件です。泳ぎながら、あるいはキックしながらの息止めは、同じ肺の空気でも早く消費されます。

陸のタイムを、水中の目安にしないでください

陸で自己ベストが出せても、それは「動かない・冷たくない・緊張していない」という条件での数字です。水中ではこの3つが同時に外れるため、同じ秒数を目安にすると余裕を見誤ります。

4つの要因で、酸素の減り方はこれだけ変わります

研究で確認できた数値と、確認できなかった項目をまとめました。

要因 何が起きるか 数値 出典
動く(運動) 呼吸を止めている間の酸素消費が増える 確認できず(定性的な説明のみ) DAN
顔を10℃以下の水につける 非代謝性の反応で最大息止め時間が短くなる 0℃で30.7秒/10℃で48.2秒/空気中(33℃)で58秒 Jay 2007
激しい運動の直後 安静時にできた息止めができなくなる 水泳選手10人中で最大75%短縮(水温10℃・運動強度85%VO2max) Konstantinidou 2016
筋肉の緊張 リラックス時より多くの酸素とエネルギーを使う 確認できず(定性的な説明のみ) PADI
顔を水につけた状態での最大息止め秒数を水温別に並べた横棒グラフ。0℃で30.7秒、10℃で48.2秒、空気中(33℃)で58秒。10℃以下で有意に短くなる。
図: Jay et al. 2007(Experimental Physiology)から BLUE BREATH が作図(2026年8月23日時点)。

表の「確認できず」は、DANとPADIの説明が数値を示さない定性的な記述だったという意味です。効果自体は複数の研究で確認されています。

潜水反射は味方ですが、冷たすぎると裏切ります

顔を水につけると、体は心拍数を下げて酸素を節約する「潜水反射」を起こします。運動中に顔を水につけた実験では、心拍数の低下が21%から33%まで強まりました(Andersson 2002)。ここまでは酸素の節約に働きます。

ただし水温が10℃を下回ると、この節約効果より冷たさそのものへの反応が強くなり、最大息止め時間はかえって短くなります。

the ATmax of 30.7 s at 0 degrees C and 48.2 s at 10 degrees C were significantly shorter than that of 58 s in AIR or 33 degrees C — Jay O et al., Experimental Physiology 92(1), 2007

緊張しているだけでも、酸素は減っていきます

PADI(世界最大級のダイビング指導団体)は公式ブログで「緊張した筋肉は、リラックスした筋肉より多くの酸素とエネルギーを使う」と説明しています。初めての海や慣れない場所では体に力が入りやすく、それだけで酸素を早く使い切ります。

対処は、ゆっくり動くことと冷えを防ぐことです

ここまでの要因は、いずれも自分で減らせます。ゆっくり動いて酸素消費を抑え、潜る前に体を水温に慣らし、ウェットスーツで冷えを防いでください。陸の記録は目安であって、水中の実力ではないと考えてください。

過呼吸をして息止めを伸ばそうとするのは避けてください。DANは「息止め前の過呼吸は、息苦しさが来るタイミングを遅らせるだけで、意識を失うリスクを高める」と説明しています。苦しくないまま酸素が尽きる状態は、対策ではなく危険です。

この記事で確認できなかったこと

  • 安静時と運動時の息止め時間を、同じ人で直接比較した秒数
  • 緊張・不安による酸素消費の増加を、数値で示したデータ

次の一歩

  1. 水中では、ゆっくり動いてください。 キックや腕の動きを減らすほど、酸素の減りは遅くなります
  2. 潜る前に、顔や体を水温に慣らしてください。 急に冷たい水に顔をつけると、それだけで息止め時間が縮みます
  3. 陸の自己ベストを、水中の目標にしないでください。 短くなって当たり前だと知っておくだけで、無理な粘りを避けられます

陸で息止めを伸ばすコツは息止めのコツは? 30秒で苦しい人が今日変えられることにまとめています。過呼吸やブラックアウト(水中で意識を失うこと)の危険は息止めの練習はなぜ危ない? 苦しくないまま気を失う理由にあります。水中で余計な動きを減らす方法は素潜りで潜れない、浮いてしまう? 力より先に浮力を疑うを見てください。潜る前の共通の注意は安全の原則にあります。

本記事は2026年8月23日時点で公開されている研究・公式資料に基づく情報提供であり、医学的な助言ではありません。持病がある方や不安がある方は、専門知識のある指導者や医師にご相談ください。