「魚突きの動画を見て、自分もやってみたくなったんですけど、銛って何を買えばいいんですか」

YouTubeで魚突きを見て、このサイトに来た方が一定数います。欲しいのは理屈ではなく、道具と場所です。この記事は、魚突きを始めたいけれど、何を買ってどこに行けばいいのか分からない方に向けて書きました。県ごとの可否は別の記事に39県分の表があるので、ここでは道具の選び方と、買ったあとに踏みやすい線だけに絞ります。

先に答えを書きます。最初の1本は手銛(やす)です。ゴムが付いていてもかまいません。ただし、突いたときに柄が手から離れないものにしてください。そこが、日本の規則の線です。

持ち帰りは3つです。

  • 最初の1本は手銛(やす)です。 ゴム付きでも、突いたときに柄が手に残るならやすです。離れるなら「もり」、引き金で撃つなら水中銃で、水中銃は日本の海では使えません
  • 道具が合法でも、突いていい相手は別に決まっています。 サザエ・アワビ・イセエビ・ナマコは、突いても拾ってもいけません
  • 人の泳いでいる浜に、やすを持って入らないでください。 遊泳区域では持つことも禁じている町があります

ここから下は、その根拠です。買う前に、上の3つだけ持って店に行ってください。


道具は3種類で、規則の呼び名が違います

魚突きの道具は、見た目はどれも「銛」ですが、県の規則の中では3つの呼び名に分かれます。やす、もり、水中銃です。どれに当たるかで、使えるかどうかが決まります。

やす(手銛)

魚を突く先端と柄がつながっていて、手で持って突く道具です。3本に分かれた先端のもの、1本の長い柄のものなどがあります。県の漁業調整規則で「やす」と書かれているのがこれで、海の規則を持つ39都道府県のうち31県が、条件付きで遊漁者に認めています。

沖縄県の水産課が出している解説に、定義がはっきり書いてあります。やすとは「魚等を突き刺して採るための漁具であり、先端部分と柄の部分が固着したもの」で、「柄の末端にゴムがついているものもありますが、使用する際、手を離した時に掌中に柄の部分が残る程度の威力であるものに限ります」。つまりゴム付きでも、手に残るならやすです。

もり(柄が離れるもの)

先端と柄が離れる構造のものです。突いた瞬間に先端だけが魚に残り、柄は手元に戻ってくる「チョッキ銛」、長い柄ごと投げる「土佐銛」がこれに当たります。三重県の解説では、水中銃・土佐銛・チョッキ銛は「先端部と柄が離れるため『もり(銛)』に該当します」とあり、さらに「ゴム付きの『やす』の場合、漁獲物を突き刺す先端部と柄とが固着した漁具であっても、漁獲物を突き刺したときに、柄が手から離れる場合には『もり(銛)』に該当します」と書かれています。

ここが、初めて買う方がいちばん踏みやすい線です。ゴムを強くして、手を離した勢いで柄ごと飛ばす使い方をすると、道具は同じでも「もり」になります。31県が認めているのは「やす」で、「もり」を遊漁者に認めている県は、このサイトで条文を読んだ範囲では見つかっていません。

水中銃(引き金で撃つもの)

銃身にシャフトを固定し、引き金で撃ち出す道具です。海外の動画で見るのはほとんどこれですが、日本で条件なしに遊漁者へ認めている県はありません。外し方は2通りです。21県は「水中銃」「水中鉄砲」「発射装置を有する漁具」のどれかの語で名指しで禁じています。13県は禁止条文を置かず、遊漁者が使える漁具の一覧に載せないという形で外しています(一覧は「次に掲げる漁具以外は使ってはならない」という書き方なので、載っていない=使えない、です)。ほかに内水面だけを名指しで禁じている県が4つ、許可制にしている県が広島の1つあります。通販で買えることと、使えることは別です。

やす・もり・水中銃の3つを、構造と県の規則での扱いで並べた図。やす=先端と柄が固着し手に残る(31県が条件付きで可)、もり=突くと柄が離れる(やすとは別扱い)、水中銃=引き金で撃つ(条件なしで認めた県は無い)。
図: 沖縄県・三重県の公式解説と、各県の漁業調整規則から BLUE BREATH が整理。

ゴム付きの手銛を選ぶときに見ること

店や通販には「ゴム銛」「パラライザー」「ハンドスピア」といった名前で、ゴムの輪が付いた手銛が並んでいます。選ぶときに見るのは、長さと、先端の形と、ゴムの強さです。

長さは、短いほど扱いやすく、長いほど届きます。最初の1本は、自分の身長くらいまでのものが扱いやすいです。先端は、3本や5本に分かれた「パラライザー」と呼ばれる形が、外しにくく初心者向きです。1本の先端に返し(かえし)が付いた形は、刺さると抜けにくい代わりに、狙いが要ります。

ゴムの強さは、上で書いた線に直結します。強いゴムで柄ごと飛ばす使い方をすると、県によっては「もり」の扱いになります。手に握ったまま、腕を伸ばす勢いで突きます。この使い方なら、道具はやすのままです。

道具の値段は書きません。店と時期で変わり、裏の取れる一次資料が無いからです。


道具が合法でも、突いていい相手は別です

ここから先が、動画では分からない部分です。やすが使える県でも、突いていい生き物は別に決まっています。

沿岸の多くの海には、地元の漁協に「共同漁業権」という権利が免許されていて、その対象になっている生き物は、組合員でない人は採れません。沖縄県の解説では、組合員以外が採ると「漁業法第195条により、漁業権侵害で告訴される可能性があります」とあり、100万円以下の罰金です。この「第195条」は改正前の番号で、現行の条文は第197条です。対象種は県と海域で違いますが、サザエ・アワビ・イセエビ・タコ・ナマコ・ウニ・海藻は、多くの海で対象です。魚を突きに行って、足元のサザエを拾ったら、それで告訴の対象になります。

さらに強いのが、全国一律の禁止です。漁業法第132条で、ナマコと13cm以下のウナギの稚魚は、誰であっても採ることが禁止されています。違反すると3年以下の懲役または3,000万円以下の罰金で、運ぶことや保管することも禁止です。ナマコは浅い砂地にいくらでもいて、拾おうと思えば拾えます。触らないでください。

突いていい魚かどうかは、県の一覧で見ます

魚そのものは、多くの海で漁業権の対象外です。ただし県によっては特定の魚を対象にしているところや、大きさの制限があるところがあります。県の水産課が出している「遊漁のルール」のページに、採ってはいけない生き物と大きさが書いてあります。行く前に、県名と「遊漁 ルール」で検索してください。


どこでできるか。まず「できない場所」から

「どこの海なら合法か」は、県の規則と、浜のルールの2層で決まります。県の表は39県の一覧にあるので、ここでは浜の側を書きます。

海水浴場の遊泳区域

夏の海水浴場は、やすを持って入る場所ではありません。西伊豆町海水浴場条例の第6条第4項を引きます。

何人も、遊泳区域では、機関を用いて推進するボート等を航行し、又はもり、やす、水中銃その他身体に危害を及ぼす器具をみだりに所持し、又は使用してはならない。 — 西伊豆町海水浴場条例 第6条第4項

「所持」が入っているのがポイントです。使わなくても、持って入ることが禁止です。同じ形の条例は他の市町村にもあり、期間と区域は町ごとに決まっています。人が泳いでいる浜では、やすは車に置いてください。

静岡と神奈川は、マスクを着けた魚突きができません

この2県は、やすそのものは認めていますが、静岡県は「水中眼鏡を利用する場合を除く」、神奈川県は「水中めがね併用禁止」と書いています。マスクを着けて潜って突く、という形そのものが外れています。伊豆や三浦で「している人を見た」という話は聞きますが、見たことと、できることは別です。

現地の掲示は、県の規則より強いことがあります

県の規則で使えても、漁港・漁協の管理する磯や、ダイビングショップの管理するビーチでは、独自に禁止していることがあります。沖縄の真栄田岬がその例で、県の規則ではやすが使えますが、現地の禁止事項にはモリ・やす・水中銃が並んでいます。詳しくは青の洞窟の記事に書きました。入口に掲示があれば、それが答えです。


この記事で確認できなかったこと

  • メーカーによる、手銛と水中銃の構造の公式な定義(規則の側の定義は沖縄県・三重県の原文で確認)
  • 「もり」を遊漁者に認めている県があるかどうか(全県の条文を「もり」の語で再検索はしていない)
  • 道具の値段(裏の取れる資料が無い)

次の一歩

欲しかったのは道具と場所でした。道具は手銛、場所は県の表と浜の掲示で決まります。やることは3つです。

  1. ゴム付きの手銛を1本、自分の身長くらいの長さで選んでください。 握ったまま突く使い方をすれば、道具はやすのままです
  2. 行く県を39県の一覧で見て、静岡・神奈川なら別の県にしてください。 行く前に、県名と「遊漁 ルール」で検索して、採ってはいけない生き物を確かめてください
  3. サザエ・アワビ・イセエビ・ナマコには触らないでください。 魚を突きに行って、拾った貝で告訴されるのがいちばん多い踏み方です

魚突きは、潜って、止まって、待つ遊びです。息止めの事故は、ひとりで潜っているときに起きます。海で守ることは、いつでも3つだけです。突く前に、隣に人がいるかを見てください。