「講習で『中性浮力は10mより浅く取れ』と言われました。でも別の本には『最大深度の半分』と書いてあります。結局、何mが正解なんでしょうか」

この記事は、素潜りの中性浮力を何mに置けばいいか迷っている方に向けて書いています。

答えから言います。中性浮力の深さに、1つの正解はありません。 PADI(世界最大のダイビング指導団体)自身が公式ブログで、深さの決め方には複数の「哲学」があると認めています。

持ち帰りは3つです。

  1. PADIは深さを1つに決めず、3つの流派を並べています。 最大深度の1/3か5mの深い方・半分・10mです
  2. AIDA(国際的な素潜り指導団体)は深さを指定しません。 水面で吐いても沈まないことだけを条件にします
  3. 肺もスーツも深さで縮みます。 浮力がゼロになる深さは、人とスーツで変わります

浮力の原理と、浮上の危険は別記事に譲ります

体が沈んだり浮いたりする原理は、素潜りで潜れない、浮いてしまう? 力より先に浮力を疑うで説明しています。中性浮力を深く取りすぎたときに何が起きるかは、素潜りの急浮上は大丈夫? 肺は破れないが、最後の5mで気を失うにまとめました。ここでは、団体ごとに数字がどう違うかに絞ります。

なぜ団体によって数字が割れるのか

PADI公式ブログは2023年と2024年の2回、中性浮力の深さを取り上げました。どちらも「一つの哲学は」「別の哲学は」という言い方で、複数の考え方を並べています。数字を1つに決めていないのは、複数の考え方が実際に使われているためです。

AIDAは、そもそも深さを数字にしません

AIDA2は水面で息を吐いても沈まないかを確かめる「Surface Exhale Test」だけを条件にします。AIDA3も「中性浮力の点を識別する」技術として教えるだけです。どちらも具体的な深さは示していません。数字で決める団体と、条件で決める団体が両方あります。

団体は中性浮力をどこに置いているか

PADI・AIDA2・AIDA3・Molchanovs・SSIの公式資料で、推奨深度を確認しました。

団体 推奨深度 根拠
PADI ①最大深度の1/3か5m、深い方 ②半分 ③10m 公式ブログが「哲学は複数ある」と明記
AIDA2 数値なし(水面で吐いても沈まないこと) Surface Exhale Testのみを条件にする
AIDA3 数値なし(中性浮力の点を識別すること) 深度でなく個人の点を見つける技術として教える
Molchanovs 確認できず 公式資料に推奨深度の明記を確認できず
SSI 確認できず 公式資料に推奨深度の明記を確認できず
深度別に残る肺容量を示す図。10mで50%、20mで33%、30mで25%に減少する(StatPearls出典)。中性浮力がゼロになる深さは人により異なる。
図: StatPearls『Pulmonary Barotrauma』からBLUE BREATHが分類(2026年8月23日時点)。

数字が無いのは「規則が無い」からではありません。深さでなく条件で教える団体もある、という意味です。所属する団体がどちらの型かで、聞くべき質問も変わります。

肺とスーツは、深さでどう変わるのか

水深が増すと水圧が上がります。ボイルの法則(気体の体積は圧力に反比例するという法則)で、肺の中の空気が縮みます。空気が縮めば体積が減り、浮力も下がります。

肺は10mで半分に縮みます

StatPearlsによれば、肺容量は水深10mで50%、20mで33%、30mで25%まで減ります。ウェットスーツの気泡も同じように圧縮されます。Polymers誌の2025年の研究では、20m相当の圧力でネオプレン(ウェットスーツの素材)の厚みが平均64.3%縮みました。5m相当でも断熱性が平均21.5%低下したと報告しています。体もスーツも深さで縮む以上、浮力がゼロになる深さは一人ひとり違います。

決め方は深さでなく「吐いても浮くか」

団体によって深さの数字は割れても、目的は共通しています。PADIもAIDAも、ブラックアウト(水中で意識を失うこと)が起きやすい水面〜10mの帯で体が浮くことを重視しています。深さの数字を先に決めるのではなく、水面で息を吐いても沈まない重さから逆算するのが実務的です。重りの量そのものの決め方は、素潜りの重りは何kg? 団体が決めるのは数字でなく「吐いても浮く」にまとめています。潜る前の共通の注意は安全の原則で確認してください。

この記事で確認できなかったこと

  • Molchanovs・SSIの公式資料に、推奨深度の明記を確認できませんでした。
  • ウェットスーツの浮力そのものが深度で何%減るかの直接データは、厚み圧縮と断熱性のデータしか確認できませんでした。
  • AIDA公式サイトは直接アクセスできず、ミラーPDFで確認しました。

次の一歩

  1. 潜る前に、水面で息を吐いて沈まないか確かめてください。 これがAIDA2のSurface Exhale Testです。深さの数字より先に満たす条件です
  2. 重りの量は素潜りの重りは何kg?で決めてください。 中性浮力の深さは、重りが決まったあとに付いてきます
  3. 団体の講習を受けるなら、中性浮力を教える深さをインストラクターに確認してください。 数字は流派次第です

一つの流派は、中性浮力の深さを計画最大深度の3分の1か5m、深い方に置くべきだとしています。(“One philosophy states that neutral depth should be approximately one third of your planned maximum depth or at 5 meters (15 feet), whichever is deeper.”) — PADI公式ブログ「Proper Weighting Techniques for Freediving」

肺容量の数字も、一次データとして原文を残しておきます。水深10mで50%、20mで33%、30mで25%まで減るという数字です。

水深10mでは肺容量が50%、20mでは33%、30mでは25%まで減ります。(“At 10 meters … causing a decrease in lung capacity by 50%. At 20 meters … by 67%. At 30 meters … 75%.”) — StatPearls「Pulmonary Barotrauma」

本記事は2026年8月23日時点で公開されている公式資料・医学文献に基づく情報提供であり、指導・助言ではありません。実際の潜り方は、所属する指導団体のコースとインストラクターの指示に従ってください。