冬も海に入りたい。でも、どこなら入れるのか。調べると、だいたい伊豆か沖縄かの二択に行き着いて、そこで分からなくなる。

その二択が、そもそも間違っている。この記事は、冬のあいだ海から離れたくない人に向けて書いた。

気象庁の海面水温と東海汽船の運航記録を自分で集計したら、東京から行ける範囲でいちばん暖かいのは伊豆半島ではなく伊豆諸島で、しかもその中で冬にちゃんと着く島は1つに絞られた。

持ち帰りは3つ。

  • 冬に東京から行くなら三宅島。 水温19.9℃と欠航率7.8%が同時に成立している島は、調べた範囲でここだけだった
  • 水温だけで島を選ばない。 八丈島は暖かいが冬は6回に1回船が出ず、御蔵島は3日に2日出ない
  • 行く前に、その島のショップが冬も受けているかを電話で確かめる。 ここは公式サイトからは確認できなかった

ここから下は、その根拠だ。水温と欠航率を順に見ていく。


冬に20℃を超えるのは、沖縄と八丈島だけ

まず水温から。気象庁の日別海面水温(2016〜2025年)を海域別に自前で集計し、12月・1月・2月・3月の平均を出した。

冬(12〜3月)の平均海面水温を海域別に示した棒グラフ。沖縄本島南23.3度、沖縄本島北22.6度、八丈島20.3度、三宅島19.9度、高知西部・柏島19.8度、和歌山南部・白浜18.4度、熊野灘・串本18.1度、千葉南部・館山17.6度、駿河湾・伊豆西17.1度、相模湾・伊豆東16.9度。20度の線を超えているのは沖縄2海域と八丈島のみ。
図: 気象庁の日別海面水温から2016〜2025年の12・1・2・3月を BLUE BREATH が自前集計した平均値。
海域 冬の平均 12月 1月 2月 3月
沖縄本島 南 23.3℃ 24.7 23.3 22.6 22.6
沖縄本島 北 22.6℃ 23.9 22.5 21.8 22.2
八丈島沿岸 20.3℃ 22.1 20.2 19.4 19.3
三宅島沿岸 19.9℃ 21.7 19.8 18.8 19.3
高知西部・柏島 19.8℃ 21.5 19.8 18.8 18.9
和歌山南部・白浜 18.4℃ 20.3 18.5 17.4 17.5
熊野灘・串本 18.1℃ 20.0 18.0 17.2 17.2
千葉南部・館山 17.6℃ 19.5 17.6 16.6 16.8
駿河湾・伊豆西 17.1℃ 18.9 17.0 16.1 16.5
相模湾・伊豆東 16.9℃ 18.6 16.8 15.9 16.2

**八丈島と伊豆半島東側の差は3.4℃**ある。

3.4℃を小さいと思うかもしれないが、この帯域の3.4℃は装備が変わる差だ。20℃前後と16℃台では、着るものも、水中にいられる時間も、上がったあとの消耗もまるで違う。同じ「冬の海」と呼ぶには離れすぎている。

そして重要なのは、八丈島も三宅島も東京都だということだ。竹芝から船が出る。沖縄まで飛ばなくても、20℃近い海が同じ都内にある。


だが、水温で島を選ぶと失敗する

ここで終われば「冬は八丈島へ行こう」で済む。実際にはもう1つ、水温より厳しい条件がある。

船が着かない。

東海汽船の大型客船(橘丸)の運航記録を、2021年から2025年までの5年ぶん(58か月分)取得してパースし、島ごとの欠航率を出した。分母は「運航+欠航」で、そもそも就航予定の無い日は除いてある。

伊豆諸島3島の大型客船の欠航率を冬と夏で比較した棒グラフ。冬12〜3月は三宅島7.8%、八丈島16.5%、御蔵島60.8%。夏6〜9月は三宅島3.3%、八丈島8.1%、御蔵島24.7%。
図: 東海汽船の運航記録2021〜2025年(大型客船)を BLUE BREATH がパースして算出。分母は運航+欠航で、運休日は除いている。
冬(12〜3月) 夏(6〜9月) 通年
三宅島 7.8% 3.3% 4.8%
八丈島 16.5% 8.1% 11.7%
御蔵島 60.8% 24.7% 39.3%

三宅島の冬の欠航率7.8%は、八丈島の夏の欠航率8.1%より低い。

八丈島は水温では勝っているが、冬の欠航率が16.5%ある。6回に1回は船が出ない。2泊3日の日程を組んで、往路か復路のどちらかが飛ぶ確率がそれなりにある。

御蔵島に至っては冬の欠航率60.8%だ。月別に見ると12月64.3%、1月65.7%、2月66.8%。3日に2日は出ない。御蔵島の記事で書いたとおり、この島はドルフィンスイムの季節(3〜11月)でも着岸率67.4%の島で、冬はさらに落ちる。水温だけ見ると候補に残ってしまうが、行けない。

この数字は、別のデータと突き合わせても合っている

御蔵島については、以前に別の資料から別の方法で数えたことがある。御蔵島観光協会が公開している東海汽船の運航記録を4,928日分(2013〜2026年)パースして出した着岸率59.1%だ。今回の運航記録から出した御蔵島の通年運航率は60.7%。

59.1%と60.7%。出典も期間も集計単位も違うのに、1.6ポイントしか離れていない。しかも大小関係が正しい——船が出ても着岸できない日があるぶん、着岸率は運航率より低くなるはずで、実際にそうなっている。

2つの独立したデータが同じ場所を指したので、どちらの数字も信用してよさそうだと判断した。


答え:三宅島

水温と到達しやすさを両方満たすのは、三宅島ひとつだった。

  • 冬の平均水温 19.9℃ — 八丈島(20.3℃)とほぼ同じで、伊豆半島東側より3.0℃高い
  • 冬の欠航率 7.8% — 3島で最も低く、八丈島の夏より低い
  • 東京・竹芝から夜行の客船。東京都内

「冬でも暖かい海」と「ちゃんと着く」が同時に成立している場所は、調べた範囲ではここだけだった。

八丈島は水温では上だが欠航率が2倍以上ある。串本は本州で最も暖かいが18.1℃で、島には届かない。沖縄はいちばん暖かいが、飛行機代と日程が別の問題になる。

三宅島を選ぶときの注意

ただし、この結論には大きな穴が1つある。次の節に書く。

なお三宅島には、かつてあった羽田からの直行便が現在は無い。2014年3月末にANAの羽田便が廃止され、いまは調布飛行場から新中央航空の小型機が飛んでいる。「飛行機で行ける」と書いてある古い情報を見たら、羽田ではないことを確認してほしい。


冬の海を、水温で語りきってはいけない

ここまで水温と欠航率で話を進めてきたが、この2つが良くても潜れない日はある。

風で海が閉まる。 冬は北西の季節風が吹く。船が出ても、現地のエントリー地点が波とうねりで使えないことがある。串本海中公園が公開している海況ログでは、2025年12月の時点でビーチポイントが「クローズ」になっている日が実際に記録されている。水温17〜20℃で、透明度も穏やかな日は10〜15mある海でも、荒れれば入れない。

上がったあとで決まる。 冬の消耗は水中ではなく、上がったあとに来る。気温が水温より低い季節に濡れた体で風に当たると、体温は水中より速く落ちる。温かいシャワーと風の当たらない着替え場所があるかどうかが、その日を「また来たい」にするか「二度と冬は嫌だ」にするかを分ける。安全の面でも、低体温は判断力から先に奪うので軽く見ないでほしい。

冬にしか無いものもある。 八丈島ではザトウクジラが見られる。八丈島観光協会によれば例年11月下旬から4月上旬で、ピークは12月〜3月。冬に行く理由が水温だけではない島もある。


この記事で確認できなかったこと

いちばん大きな穴から書く。

  • 🔴 三宅島・八丈島で、冬にフリーダイビングを受け入れているショップを確認できていない。 これがこの記事の最大の未解決点だ。水温と船の話だけが揃っていても、現地で受けてくれる場所が無ければ結論は絵に描いた餅になる。冬季の営業有無を公式サイトで明記しているショップを見つけられなかった。行く前に必ず、その時期に営業しているか・スキンダイビングを受けているかを直接問い合わせてほしい。

  • 冬季のウェットスーツの厚みについて、公式の推奨を見つけられなかった。 一般論として書かれた記事は多数あるが、メーカーやショップが地域と時期を指定して公式に推奨している資料に当たれていない。だから本文で「何ミリ」と書いていない。

  • 欠航率は「潜れる確率」ではない。 船が着いたかどうかしか表していない。着いた日に海に入れるかは別の条件で決まる。この記事の数字を「7.8%しか潜れない日が無い」と読まないでほしい。

  • 運航記録の出典は個人が運営するデータベースである。東海汽船の公式発表を集めたものだが、公式の一次統計ではない。御蔵島について別ソースと突き合わせて整合を確認した(上記)ものの、三宅島・八丈島については同じ検証ができていない。

  • 透明度が冬に上がるという話に、数値の裏付けを見つけられなかった。 ショップや観光サイトの定性的な記述はあるが、観測データに基づく資料に当たれていない。だからこの記事では透明度を判断材料に使っていない。

  • 柏島・奄美は調べきれていない。 冬の候補として名前は挙がるが、一次情報にたどり着けていないため今回は扱わなかった。


冬の海は、行き先を決める条件が夏より多い。水温・船・風・現地の受け入れ・上がったあとの環境。このうち数字で決められるのは前の2つだけで、残りは電話で聞くしかない。

数えられるところは数えた。ここから先は、行く人が確かめる領域になる。

次の一歩

冬に潜りに行くと決めたなら、順番はこうです。

  1. 行きたい月の欠航率を、上の表で先に見てください。 三宅島の7.8%と八丈島の16.5%では、押さえる日数が変わります
  2. 候補が決まったら、その島のショップに電話して、その時期に営業しているか・スキンダイビングを受けているかを聞いてください。 ここがこの記事のいちばん大きな穴で、公式サイトからは確認できませんでした
  3. 上がったあとの場所を、入る前に確保してください。 温かいシャワーと、風の当たらない着替え場所です。冬の消耗は水中ではなく、上がってから来ます
  4. 島まで行く日程が取れないなら、47都道府県の海のデータで近場の候補も見ておいてください。 冬は入れる日そのものが少ないので、選択肢は多いほうが有利です

冬の海は、閉まっているのではなく条件が多いだけです。水温と船は数字で選べますし、残りは電話1本で埋まります。そこまで済ませた人だけが、いちばん人の少ない海に入れます。